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町の外まで移動すると、独神は深く息を吐いた。その表情には安堵と同時に、これからの展開への覚悟が滲んでいた。
「荷物を運んでくれてありがとう。あとは用意してくれた麻袋で持っていくわ」
独神は忍に向かって言った。
「重いですよ。運搬は私が最後まで付き添います」
「もう十分やってもらったわ」
「物を所持している限り危険です。私は頭領に最後まで傍にいろと指示を受けています」
忍は静かに、しかし断固とした口調で言った。
「大丈夫よ。そこまで華奢なオヒメサマじゃないわ」
「頭領の命令は絶対です」
独神と忍の間に緊張が走る。二人の視線がぶつかり合い、空気が重くなっていく。
「ならここに置いててもらえる? オオタケマルに自分で取りに来てもらうから」
「では、伝令は私が参ります」
「いいえ。もういいの。だってあなたオオタケマルに酷いことしそうで怖いんだもの」
「誤解でございます。我々は与えられた任務のみを遂行いたします」
与えられた任務。それが独神に都合の良いものでないくらい判る。
独神の視線が何かを探るように忍の身体を這う。
「コタくんのことは信頼してるし、彼の下で動くあなたたちも信用出来る。平時では。今は出来ない。だってコタくん、オオタケマルのこと絶対に嫌いだもの。ねえ?」
反応はない。忍とは主以外にはそういうものだ。
だから、独神は主ではないということだ。
「退いてもらうことって、できる?」
「できかねます」
忍の答えは冷たく、決定的だった。
じりじりと間合いを詰めてくるのは、は独神の捕獲も命令に入っているのかもしれない。
独神は深く息を吐いた。その目には影が落ちている。
「結局私も、力に頼るしかないのね……」
独神の声は静かだったが、その瞳には強い決意が宿っていた。
空気が張り詰め、二人の間に一触即発の緊張が走る。独神の身体からは、穏やかながらも強大な力が漂い始めていた。
殺意はなくとも、圧倒的な支配力と純粋な力の大きさを見せつける。
緊張が頂点に達したその瞬間、突如として鋭い風切り音が響いた。オオタケマルの巨体が、まるで空から落ちてきたかのように二人の間に着地した。地面が揺れ、土埃が舞い上がる。
「おや、なんだ。二人で仲良く話し合いかァ?」
オオタケマルの声には皮肉が滲んでいた。独神は驚きの表情を浮かべるが、忍は後方に飛びながらクナイを投げつけた。
オオタケマルは霊力で作った虎でクナイを叩き落としながら、独神の首に大きな手を伸ばした。
「退かねェなら独神の首を折る。手前の頭領もこいつさえいなけりゃ問題ねェんだろォ?」
オオタケマルの声は低く、威圧感に満ちていた。
その巨大な手が独神の細い首を完全に包み込み、徐々に力を込めていく。
独神の顔が歪み、苦痛で目を見開いた。
喉から絞り出されるような音が漏れ、独神の両手が無意識にオオタケマルの腕に伸びる。しかし、その力は全く及ばない。顔が紅潮し、目が充血していく。酸素が奪われ、視界が霞み始める。
独神の身体が痙攣し始め、足がバタバタと地面を叩く。唾液が口の端からこぼれ落ちる。
死の淵を彷徨う姿は、平凡な民も界を制した独神も変わらない。
忍は静かに一歩後ろに下がった。
「……撤退します」
オオタケマルは満足そうに笑い、独神の首から手を離した。
独神は地面に崩れ落ち、激しく咳き込む。喉をかきむしりながら、貪るように空気を吸い込む。
顔は真っ赤で、首には痣が浮かび上がっている。
涙と唾液で顔を濡らしながら、かすれた声で絞り出すように言った。
「……助かっ……た……わ」
オオタケマルは独神を一瞥もせず、荷台へ向かった。木箱や麻袋の中身を確認していくと、その目が喜色を満たしていく。
「ほう。これが中にあったのか。しっかし、どう価値があるか判らねェな」
嬉しそうに声を上げるオオタケマルとは対照的に、独神はゆっくりと土の上に座り込んだ。
大きな呼吸を繰り返し、疲労ですっかり力の抜けた身体を支えるのがやっとだった。首の痣が灼くように痛み、喉の渇きが独神を苛む。
宝をしまったオオタケマルは、再び独神に向き直った。その目には冷酷な光が宿っていた。
オオタケマルの刃が夕日に反射して不吉な輝きを放つ。独神はその光景を静かに見つめている。
「さっきの忍くれェ、手前なら一瞬で殺せたろ。そうすりゃ良いようにされずに済むじゃねェか」
オオタケマルの声は低く、挑発的だった。
独神は目を閉じ、深く息を吐いた。再び目を開けると、その瞳には強い意志が宿っていた。
「殺めるのは嫌って言ったでしょ」
その言葉が空気を切り裂いた瞬間、オオタケマルの刀が独神を切り裂いた。
刃が独神の肉体を貫いたかに見えたが、その姿は霧のように消えていった。切り裂かれたのは身代わりの幻影だった。
「チッ!」
舌打ちとともに、オオタケマルは刀を投げ捨てた。
そして突如、何もない空間に向かって猛烈な拳を繰り出した。しかし、その拳は予想外の抵抗に遭って止まった。
拳の先に、独神の姿が徐々に現れる。オオタケマルの拳を両手で受け止め、微動だにしない。まるで最初からそこにいたかのようだった。
オオタケマルの顔が怒りで真っ赤になる。その目は血走り、まるで獣のようだった。独神は動じることなく、静かにオオタケマルの拳を押し返した。
「命令であっても殺しはしない」
独神の声は変わらず冷静で決意は揺るぎなかった。
オオタケマルは独神の胸ぐらを掴んだ。その大きな手に、独神の小さな体が持ち上げられる。
「ふざけてんのか手前」
オオタケマルの声は怒りに震えていた。
敢えて防御をしなかった独神は「いいえ」とはっきり否定した。
「宝が欲しかったのでしょう。私は手に入れた。あなたに渡した。文句はないはずよ。目的をはき違えないで」
その言葉に、オオタケマルの怒りが一瞬揺らいだのか、力が弱まった。
そのまま、放り出すように手を離した。独神は軽やかに着地し、衣服の乱れを直す。
「……態度のでけェ道具だな」
オオタケマルは舌打ちをした。
しかし、その目は再び麻袋に向けられた。宝を見つめるオオタケマルの表情が、徐々に満足げなものに変わっていく。
「だが確かにこれは手前なしでは出来なかった仕事だ」
独り言のようにつぶやいた。
勝手に機嫌を直したオオタケマルは独神の肩をばんと叩いた。その力に、独神は一瞬よろめきそうになる。
オオタケマルは小袋から何かを取り出して独神に差し出した。
「俺からのちょっとした褒美だ。見てみな」
独神は慎重に手を伸ばし、それを受け取った。
紙かと思えば、写真だった。
この世界で写真を扱えるのは宝玉を司る神タマノオヤだけである。
独神の指が微かに震える。
写真には英傑たちが穏やかに暮らす一場面が収められている。二枚目、三枚目も同様である。
独神の表情が凍りついた。その目に恐怖の色が浮かぶ。
しかし、すぐに平静を装い、軽い調子で言った。
「……へえ。みんなこんなことをしているのね。これがどうしたの?」
口端を大きく吊り上げたオオタケマルの目は、危険な光を放っている。
「手前が反抗する度にこいつらを潰す」
その言葉に独神が怯んだ。しかしすぐに反論する。
「何言ってるのよ。あなたが直接手を下すなら判るけれど、英傑相手に普通のひとがかなうわけないじゃない」
オオタケマルは冷笑を浮かべた。
「英傑自体はな。けど、こいつらが大事にしている居場所なり、ひとなり、物なり、あるだろォ? それなら俺が出張らなくても各地にいる駒どもで十分だ。それにな、素人でも集団になりゃそれなりに使えるって、手前はよォく知ってるだろ」
独神の身体から完全に力が抜けた。
風が吹き、独神の髪が揺れる。その姿は、まるで折れそうな一本の若木のようだった。
オオタケマルは独神に近づき、低い声で言った。
「俺もな、昔の仲間に刃を向けるのは胸が痛むんだぜェ? だったら、手前がすべきこと、判るよな」
独神は目を閉じ、深く息を吐いた。
英傑達は独神を支え続けてくれた仲間だ。もう二度と辛い思いはさせないと決めていた。
「嘘かも知れねェっていうなら、見せしめに一人やってもいい。戦闘向きでねェ奴から順番にいこうじゃねェの」
「やめて!」
独神の叫びが空気を切り裂いた。
オオタケマルの目が細くなる。
「その言い方で良いんだな?」
独神の顔が歪んだ。ゆっくりと地面に膝をつき、手を添えた。
「……英傑達に手を出すのは止めて頂けませんか」
独神は完全に土下座の姿勢をとった。その背中は小刻みに震えている。
オオタケマルは独神の頭を足で踏み付けた。その重みで、独神の顔が地面に押しつけられる。
土埃が舞い、ようやく綺麗になりかけていた独神の髪が乱れた。
「なら、なんでも出来るな」
オオタケマルの声には勝ち誇った調子が混じっていた。
独神は顔を上げることも出来ないが、はっきりと言った。
「いいえ。殺しだけはしません」
オオタケマルの足に力が込められ、独神の頭がさらに地面に押しつけられる。
「その代わり、殺し以外ならなんでもする」
それはオオタケマルに従うと決めた時から覚悟していた。生半可な気持ちでついていける相手ではない。
どこまでも自分を曲げると決めたのだ。だから窃盗も行った。
この主張をどう思ったのか、オオタケマルは足を下ろし、独神を見下ろした。
その目はつまらなさそうに、そして試すように煽った。
「ならその辺の乞食にでもご自慢の身体を差し出してもらおうかねェ」
「判りました」
独神は揺ぎなかった。
オオタケマルは大声で笑い出した。その笑い声は、周囲の静寂を破り、不吉に響き渡る。
「冗談だよ、冗談。そう怖い顔すんな」
屈服させたことに満足しているのか、腹の底から笑っているようだった。
その様子に独神の目は一瞬────笑った。
しかし、顔を上げた時の表情は苦虫を噛み潰したかのように歪んでいた。
「手前ほどの上玉はもっとここぞって時に使うもんだ。今はその時じゃねェ」
オオタケマルはわざとらしく手を差し伸べた。
「改めて? よろしく頼むぜ、御大」
独神はその手を取らず、自力で立ち上がった。頭を振って泥を落としている。
「……昔から変わらないわね」
独神の声には疲れと諦めが混じっていた。
オオタケマルもつまらなさそうに吐き捨てた。
「手前もな」
かつての主従は覆った。八百万界の光は悪鬼の手の中に閉じ込められる。
独神の瞳に映る世界は、以前よりも暗く、冷たいものに変わっていた。
しかし、その瞳の奥深くには、希望の光がしっかりと輝いていた。
やぁっと書けたオオタケマル単体小説。
自分は本当に満足しています。オオタケマルの夢小説を世に出せたことを。
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