全英傑小話-剣士-【双代】

タケミナカタ    

 ────第298回。
 主人公になるにはどうすればいいか会議。始めます。

「僕なんて到底無理だ。どうせタケミカヅチの方が主人公が良いと言うのだろう? 僕が神代八傑達と行動を共にする間、タケミーろすに陥っていたのだろう? そして早くタケミカ戻ってきて! と声援を送っていたのだろう。主人公の格ではないといって、薄い板にぽちぽちぽちぽち僕に対する不平不満を書いていたのだろう。僕なんてどうせ繋ぎでしかない。そうだろう? 結局二番手。なのに当然のように看板面するなと、双璧ならフツヌシだろうとそう言うのだろう。突然三人で映っていて不快だと、みんなそう言うのだろう!!!!」
「ままそう言わずに。お酒追加しまーす」

 この会議はお酒をタケミナカタにしっかり注いでベロベロに酔ってから開始する。
 酒が入ると彼は後ろ向きな発言が多くを占める。

 これらはタケミカヅチに対する劣等感のせいだ。
 あとは薄い板を見たのが悪い。
 すっかり気にして自分が何しても悪口を言われていると思うようになってしまった。
 八百万界が薄い板を禁止にして良かったと思う。

「ほら英傑の皆の意見を集計したでしょ! そっち見て分析しましょうね」

 ・青枠
 ・病み仲間
 ・剣士は主人公っぽい
 ・横腹が出ているので女性受けする
 ・自然と住まう神様は優し気で良い
 ・水は生命の源だから主人公
 ・熱血は暑苦しいから、涼し気な感じで良いんじゃない?
 ・めちゃ愛してくれそうだから主人公いける!
 ・大体主人公は万物を愛し守るから、生きとし生けるものの守護者はあり

「ほらほら。こんなにあったでしょ」
「……はあ」

 お猪口の酒を飲み干し、溜息を吐いた。

「だが戦隊ものなら赤が主人公で青は脇役なのだろう」
「そうだったっけなー。最近は枠にはまらないのが多いから」

 と、ホシクマドウジが言っていたことをそのまま伝える。

「子供向けの黄表紙では、主人公が熱血ばかりだと」
「呪術を使うのとか、木を切る機械の主人公は熱血じゃないよ」

 と、ボロボロトンが言っていたことをそのまま伝える。

「……はぁ」

 手酌で一杯やり始めた。
 励ましの言葉を言ったところで本人には響かず、いつもこのような感じだ。

 いっそのこと……と思い、タケミカヅチの悪口をひたすら言った事もあった。
 その時は、

「……僕の主《あるじ》はそんな事言わない。英傑の悪口なんて悪霊に操られていても言わない」

 と解釈違いだから寝ると言って、本当に廊下で寝たこともあった。
 面倒くさい神である。

「そういえば主《あるじ》、最近タケミカヅチに何か貰っていなかったか?」

 目聡い。

「村の人が感謝の品だって。それを届けてくれたの」
「それにしてはやけに包装が綺麗だったような」
「村人全員で出し合ったって聞いた……それに京に近い所なの、あの辺って裕福だから」
「そうか」

 ────怖い。
 タケミカヅチに限らず、私が何気なく物を貰ったり、出かけたりすると、後日ちらっと言われるのだ。
 忍でもないのに監視しているのだろうか。いくら自分時間がない私でも怖い。

「主《あるじ》も本当は後ろ向きはやめてくれとうんざりしているんだろう。だから僕はいつまでも、主《あるじ》に重用されないんだ」

 あーあ。今度はこの話題になったか。
 タケミナカタはこう言っているが、お伽番率は十分高い。
 戦闘を主とする英傑はお伽番率が低い中、多くの日数を務めているのにタケミナカタは少ないと言う。
 頭脳労働が得意なミチザネやショウトクタイシと比べても仕方ないのと思うのだが。
 そう言っても、タケミナカタは納得してくれない。
 自身に満足せず、常に精進していく姿勢はきっと真面目故だろう。

 さてそろそろ、元気づけていこうか。

「ねえ。私は青が好きだし、暑苦しいのは苦手だし、別に問題ないと思うんだけど」

 『好き』の単語にタケミナカタが反応するのは297回も行った会議中に判明している。

「……なら、草と火と水とあったらどれを選ぶ?」
「水一択。歴代の携帯獣では水しか選ばないよ」

 水は生命の源。
 そんなのもあって、独神である自分は水が好きだ。
 元気づける為の即製の嘘なんかではない。

「て、天然脳筋と! 爽やかな後ろ向きとどっちがいいんだ!?」

 個人名が後ろに透けて見えるが、見えない振りをするのが大人である。

「んー、天然だから好きになることはないかな」
「そうか! 天然は嫌いなんだな!」

 大分歪曲しているが、本人はそうしないと心を保てないのだから気にしないであげるべきである。

「そうか。主《あるじ》は僕の方が良いんだな!」
「うん。タケミナカタは好きだよ」

 そう言ってあげると、酔いで赤くなった顔ではにかむのだ。

「そうか……そうか……」

 嬉しそうに酒瓶を抱いて、瞼を落とした。
 手足を触ると体温が上昇していたので、このまま寝てしまうだろう。
 私はタケミナカタを撫でながら、子守唄替わりの言葉を歌った。

「大丈夫大丈夫。頑張ってるの知ってるよ」

 落ち込むだけではなく、努力を重ねていることを知っている。

「主人公なんて本当はいないよ」

 主人公なんて言い出したのは本殿の外の者達だ。

「主人公が読者に夢や希望、生きる為の力を与える存在というなら、それは物語の誰もが主人公になれる」

 八百万界全域で英傑達への応援の言葉が届くが、特定の英傑だけではなく満遍なく頂いている。
 それは人によって、心を動かしてくれた英傑は違うからだ。
 英傑一人が救える数には限りがあり、みんな自分の得意分野で助けてくれている。

「君はタケミカヅチじゃないけど、タケミカヅチじゃなく君を好きになったひともいる。君のお陰で日々楽しく過ごせている人は必ずいる」

 タケミナタカのお陰で村が守られたと、最近もお礼の手紙が来た。

「君も光だ」

 誰かと比べることなんかない。

「だから君を必要とするひとをもっと大事にしなきゃ。……私とかね」

オモダル    

「私が完璧になる為には独神殿が必要なんです」

 と言われて、

「勘違いだよ。嵌め絵じゃあるまいし」

 と返した。
 その時の私は、自己確立に他人を当てにするのは良くないと思っていた。
 自分をしっかり持っていなければ、他人を求めた所で頼りすぎてしまう。
 各々が地に足を着いた状態で、頼ったり頼られたりして相互扶助していくのが理想なのではないかと。
 アヤカシコネに後から耳打ちされた。

「あれ……。独神様へ告白したつもりなんです」

 寝耳に水である。

「いや。だって、あれで?」
「ええ。完璧を表すオモダルが、独神様も自分の一部であると言うのはつまりその、一緒にいて欲しいという想いからです……」

 私の勘違いから、とんでもないことを言ってしまい罪悪感が募る。
 断るにももうちょっと言葉があったはず。

「……ここで、私が謝ったらどうなると思う?」
「どちらにせよあまり良いとは思えませんね」

 やってしまったと頭を抱えた。

「もう休憩終えないと……アヤカシコネ、教えてくれてありがとう。あとはなんとかするから」
「何か伝えることがありましたら遠慮なく言って下さいね」

 片割れをこっぴどく振った私にも優しく、アヤカシコネはそう言ってくれた。
 気持ちだけ受け取っておこう。
 私の不始末は自分でつけなければならない。
 悪霊のこと以外で、独神が英傑の手を煩わせることを私は嫌った。
 私たちは悪霊を倒す為に一所に集い、便宜上私が組織の上に立っている。
 特異な力だけで上に押し上げられた私が、まるで私物のように英傑達のことを使うことは良くないことだ。
 私は中立の立場を保つため、そうやって自分を律してきた。
 今回の事も自分でどうにかしなければ。

「独神様。ありがとうございます!」

「主様、今回も完ぺきだったよ」

「悪いのはあっちだけど、まあお前の顔立ててやるよ。今回だけだからな」

 八百万界の平和を取り戻す事を目標に、その為に必要な事はなんでもやった。
 働く事だけが私の意義だった。

 それは言い訳だったのかもしれない。
 オモダルのことは心の隅に引っかかっていたのに、全く行動しようとしなかった。

「うわ。主早すぎ! もっとゆっくりでも良かったのに」

 今日出来ることは今日中にやる。
 仕事ならなんでも前倒しでやっていけるのに、オモダルのことは後回し。
 間違った行動だと判り切っているのに、私はいつまでも動けなかった。

 オモダルの態度がいつも通り変わらなかった事も行動を遅めた要因だろう。
 いつもの通りに任務を行うオモダルに、私がわざわざ謝ったり、埋め合わせをするのはどうなのだろうと言い訳が出来てしまった。

「まず謝れって話じゃない?」

 英傑達の雑談に無関係の私は胸を掴まれた。

「結局ずるずるずるずる何にも言わなくてさ、こっちが許すの待ってるわけ? こっちがなんでもないふりしたら嬉しそうにしててほんとムカつくんだけど」

 オトヒメサマの言葉にキリキリと胃が痛む。

「ね、主《ぬし》様。主《ぬし》様はそんなことしないよね?」

 空気が「しない」と言ってくれるだろうという期待に満ちていた。
 そこで私はうっかり「する。かも」と言ってしまった。
 当然、皆は私を見てぎょっとしていた。こうなると判っていたのに。

「主《ぬし》様……? どしたの? 悩みでもあるの?」
「ないよ。仕事で色々あっただけ」

 誤魔化す私をオトヒメサマはじっと見て、

「よし! 呑もう!」

 どこからともなく酒瓶を取り出した。

「真昼間だよ? しかも昼食すぐの」
「だから何? ねぇ、ちょっとー、誰かつまみ持ってきてくれない? 主《ぬし》様は普段付き合いでしか飲まないから、抵抗のない普通のおかずで。お酒は度数高いもの。まずは一気に呑ませるから!」

 と言いながら私を羽交い絞めにして酒瓶を咥えさせてきた。
 必死の抵抗もむなしく、私の中にはごぼごぼと酒が投入される。

 その後の記憶は曖昧だ。

 頭痛で起き上がった時にオトヒメサマが「主《ぬし》様可愛いとこあるじゃん。弱いところもっと出していきなよ。私たち主《ぬし》様に期待してるだけじゃなくて、支える為にいるんだから」とかなんとか言っていた気がするが、夢なのかもしれない。
 夢だとしたら摩訶不思議な夢で、胸に渦巻いていたものが整頓され、仕事にも励むことが出来た。

 一番の変化は。

「あ。オモダル。今夜時間あるかな?」
「勿論です。迅速に執務室の方へ参ります」
「それなんだけど、私の部屋でも良いかな」
「承知致しました」

 私が遅れて自室へ行くと、オモダルは直立で部屋の前で待っていた。

「ごめんなさい。討伐依頼の対応をしてて」
「お忙しい身であることは重々承知しております。ですからお気になさらず」

 自室は整えていたのでそのまま通した。
 干した座布団に座ってもらって、お茶を出した。
 仕事の話をして空気が温まったら、迷わず切り出した。

「以前のこと。冷たい対応をしたこと謝らせて欲しい」

 床に手を付け、頭を下げた。

「独神殿、やめて下さい」

 慌てたオモダルは私を無理やり起こした。

「あの時は私の方こそ申し訳ございませんでした。軽率な行動で独神殿にご迷惑を。……ですが、その……今まで私のことを考えておられたんですか」

 困惑したような、どことなく嬉しそうな表情をするオモダルに数度頷いた。

「迷惑じゃなかったよ。ただ本当に判らなかった。そういうこと考えたことも無かったの」

 オモダルは私を探るように見てきたので、私は目を伏せた。

「悪霊を一早くここから追い出して、平和を戻さないと。自分の事を考える余裕がなかった。自覚もなかった。多分このままじゃ、一人一人のことが見えなくなる」

 オトヒメサマとお酒をかけあいながら、私は色々なことを言っていた気がする。
 嫌だったこと、面倒臭いと思っていたこと、気になるのに聞けないこと。
 それらに対してオトヒメサマは私を容赦なく馬鹿にして、時には共感して、最終的には応援してくれた。
 情けない独神を肯定してくれた。それはオトヒメサマだけでなく、英傑達は皆そうだと教えてもらった。

「他人を頼りにするのは怠惰だと思っていたけど、今のままじゃ正しい独神にはなれない」

 私は欠けた生き物だ。
 神も妖も人も、欠けた存在だ。

「完璧な自分の為に私が必要だって話、今なら肯定するよ。生物ってそういうものなんだよね。当たり前のこと、すっかり忘れてたの」

 欠けているから補い合おう。
 その考えで皆がここに集まったはずなのに、私が忘れているなんてあってはならないことだ。

「私が気づけたのはオモダルがきっかけだった。それで……虫のいい話だとは判ってるんだけど……」

 ここまできて躊躇ってしまう弱い自分がいる。
 でも私には頑張れと応援してくれたアヤカシコネや他の英傑達がついていた。

「私にもオモダルが必要なの。だから、……傍で私を支えてくれないかな」

 言い切った。私は言い切ったよ、皆。
 オモダルは小さく笑っていた。

「勿論ですとも。このオモダル、独神殿の為全てを捧げましょう」

 出来た。ああ、終わった。ようやく胸のつかえがとれた。

「早速ですが、今日はお互いを知るためにもっとよく話しませんか。今夜の月は綺麗ですから」
「名案だね。縁側の方行こうか」

 オモダルにも、私のことを知ってもらおう。
 その中にはオモダルにとって都合の悪い私も沢山いるだろう。でもそれを含めて聞いてもらう。
 私がどれだけ完璧じゃないか、オモダルがどれだけ完璧じゃないのか、お互いに理解して二人で歩んでみよう。

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