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タマノオヤ
去年の大掃除、特殊な悪霊が現れて本殿の大掃除どころではなかった。
なので今年は全体的に予定を早めようという命が下った。
真面目なタマノオヤは素直に自室を片付けていた。
本殿に来てからは八百万文界帳と写真の枚数が大幅に増え部屋を侵食していた。
「掃除早めて正解。アタシ、これ掃除出来るのかなあ……」
ここにあるものは、捨てられない大切なものばかり。
せめて整理はしようと、写真を写真帳にまとめていく。
「あ、この写真……。懐かしいな」
紅葉した山々を撮った風景写真である。
「でもなんで撮ったんだろう」
自分で撮ったはずなのに思い出せない。
当時はきっと心が動いたはずなのだが。
「……ふふ」
タマノオヤは写真を持って執務室へと向かった。
独神が丸めた座布団を枕に大の字で寝ていた。休憩中だろう。
「主《あるじ》さん、ちょっと見てくれない?」
写真を見て「ああ」と独神は言った。
「これって皆で黄金紅葉探しに行った時ですよね」
「……そうだな。随分懐かしい写真だ」
黄金色の紅葉があるという言い伝えがあるが、そんなの偶々黄色になった紅葉のことを盛っただけだという話になり、実際に真相を調べようとなったのだ。
その時は悪霊も少なく、そして英傑達は暇だった。
「でもアタシこれ撮った覚えないんだ。主《あるじ》さん知らない?」
「さあ。知らんな。君の手提暗箱《てさげかめら》なら君しかいないだろう」
独神はゆっくりと起き上がった。
「そうだよね。……それで、あの、……そろそろ時期だよね。もし良ければ一緒に行かない?」
本題はこれだ。写真は口実に過ぎない。
「ああ。明日なら調整出来る」
「じゃあ明日! 紅葉狩りなんてわくわくしちゃう! 誰か誘いたい子がいたら誘っていいからね」
「……判った」
「仕事の邪魔してごめんね。明日の朝よろしくね!」
次の日。
待ち合わせ場所に来たのは独神だけだった。
「主《あるじ》さん一人?」
「君も。保護者は良いのか?」
「いいのいいの」
独神との約束は誰にも言わなかったが、イシコリドメは知っていた。
一緒に行きたいと言われたが、出来るだけ傷つけない言い方で断った。
もしも……の可能性を考えてしまい、タマノオヤは大事な友人を拒んだのだ。
「主《あるじ》さんはアタシと二人だと困っちゃうかな……?」
独神はイシコリドメが来ると想定していて、二人きりは気が進まないのだとしたらと思うと怖かった。
「二人で良い。折角紅葉を見るなら静かな方が良いだろう」
「……そ、そっか! なら良かった! じゃあ行こ!」
二人きりのお出かけ。
始まると気まずさはなく、二人で綺麗な紅葉を見て楽しんだ。
「やっぱりこれ。アタシじゃない気がする」
きっかけとなった写真を見てタマノオヤは眉を顰めた。
「気のせいじゃないのか」
「ううん、絶対違う。だって見て」
タマノオヤは指差した。
「この写真はここで撮ってるの。でもアタシはこれを見てどんな気持ちだったか思い出せない」
断言するタマノオヤの隣に立った独神は、写真と同じ風景を眺めた。
「それ。撮ったの私」
秋風が赤や黄色の葉を舞い上げた。
「タマノオヤって他人ばかり撮るだろ。それで」
「でもこれ風景ですよね」
タマノオヤが撮影する時、特に大勢といる時は被写体は人物のみだ。
風景を写したい時も誰かが入るようにしている。
「一応勝手に撮るわけだからな。……それにバレるのは嫌だ」
「でもアタシがって……」
「君にはただの風景にしか見えないだろうが、私にはここに映るタマノオヤがちゃんと見える」
それはタマノオヤだけが見えないタマノオヤの写真。
「……な、なんだか恥ずかしいね」
独神の中にいる自分の姿を思うと照れ臭かった。
「そろそろ帰るか」
用は済んだと先に行ってしまう独神を慌てて引き留めた。
「待って! ふ、二人でその……撮りませんか?」
手提暗箱《てさげかめら》片手に、真っ赤な顔で頼んだ。
「……いいよ」
独神はタマノオヤの肩を抱き、機械上部の突起を押した。
……
…………
………………
「……ってことあったよね」
紅葉狩りの写真が三枚、壁に飾られていた。
「ねえお母さん、この写真。誰もいないのに温かい気がするね」
それは黄金紅葉を見に行った時に撮られた写真だった。
「そうでしょ! 恥ずかしがり屋の誰かさんがアタシを好きな気持ちがいっぱい入ってるからね!」
「子供に言う事でもないだろ」
離れた所で独神が文句を言った。
「いいえ、子供だからこそ教えてあげた方が良いって! 好きあって産まれたことを知られるって嬉しいに決まってるんだから」
「あー、はいはい」
独神は呆れて奥へと引っ込んでいった。子供がタマノオヤの服の裾を引いた。
「怒ってる?」
「ただの照れ隠し。あのひとはお母さんのことが好きだけど、恥ずかしいんだって」
「大人なのに?」
「可愛いでしょ?」
「うん!」
タマノオヤによく似た小さな女の子は満足そうに笑った。
イワナガヒメ
八百万界で六月の結婚式が増えた。
六月に結婚することで幸せになれると、誰が流行らせたのか定かではないが新しい風習を住民たちは受け入れていった。
結婚といえば神殿や神社で行うことが通常だが、最近は新しい式場が建つようになっている。
結婚式の服装も白無垢以外にも白い怒礼須《どれす》と選択肢が広がったので、選ぶ楽しさが倍増した。
「主様! 今回もお願いします!」
「よしきた!」
手先が器用な独神は、針仕事を手伝っている内にいつのまにか戦力の一人となっていた。
仕事ばかりの独神には良い気分転換になっている。
「つっかれたー。今日もいい仕事したー」
花嫁から英傑へ依頼された怒礼須《どれす》の担当部分は終わった。
満足そうな顔をしているが、本業はここからである。
悪霊の被害の大小で英傑を振り分けたり、各地の偉い人へ打診する手紙を書いてみたり、派手さはない細々とした仕事を過不足なくこなす。
仕事一辺倒ではなく、なんでもこなす器用さをイワナガヒメは羨ましく思っていた。
「凄いですわ。私なんて……」
イワナガヒメは自他共に認める不器用剣士である。
「やってみりゃ良いじゃん。今お針子大歓迎だから」
「ですが」
「剣が上手くなりたい奴にあんたならなんて言うの。まず素振りしろ、でしょ?」
「……おっしゃるとおりですわ」
「幸いにもここには先生が沢山いる。いくらでも聞けるじゃん。初心者のあるあるなら私もな」
独神に乗せられて一先ず縫ってみる気になったようで小さく頷いた。
「あんた最近白無垢が良いって話してたろ。じゃあ、白無垢作ろう」
「ぃえ!? もっと簡単なものからでは?」
「心が動いたものから始めれば、やる気も続きやすいだろ。あー、そうだ、自分じゃ布をあてるのも難しかろう、私が人形役やってやる」
「え!? 主《ぬし》様!?」
「私に合うもん作れよー」
強引な独神に言われるまま、イワナガヒメは毎日白無垢をこつこつ製作していった。
あまりの難しさに何度も投げ出しそうになったが、意地と周囲の応援で継続した。
コノハナサクヤにも助言や実演をしてもらって、なんとか白無垢っぽい物が出来た。
「主《ぬし》様。お、お願いします」
「ん。任せよ」
長襦袢まで脱ぎ散らかし、掛下、白無垢と着ていった。
しかし、腕が一本出口を見つけられず中に籠ってしまった。
「……縫う場所間違ったな。それに……。ああなるほどな。最初の縫い目も力の具合もイマイチだが、……この辺は最近やったろ? 上手くなってる。偶に酷い縫い目なのはどうした、眠かったのか」
イワナガヒメは肩を狭めて顔を真っ赤にしている。
「お疲れ様。一枚出来上がったぞ。頑張ったな」
「……申し訳ございません。やはり私なんて」
「私がどうして、私用に作れと言ったか判るか?」
目を細め、口を尖らせる独神に、イワナガヒメは慎重に答えを探した。
だが、先に独神が答える。
「あんたの自己評価が低いからだ。でも他人相手なら着物だけを冷静に見られるだろ? だから人のものを作る方が良いと思ってな」
言葉のなくなったイワナガヒメに独神は続ける。
「あとは私的なものでな。ちょっと試したかったんだ。私に着せてやろうとするのはいるが、いっそ自分で着て確かめてやろうってな」
独神は笑った。
立場や能力、面倒見の良い性格と他人に好まれる要素の多い独神はよくひとに見初められた。
今まで誰かと交際したと聞いたことはない。
「……主《ぬし》様は気になっている方はいらっしゃしますか?」
「相手? そりゃいないさ」
「でも、それだけお声がけされていて」
「相手の要望に応えてたら私死ぬぞ。何人とっかえひっかえすりゃいいんだよ」
ころっと不満顔に転落した。
「私は民の求めに応じる。それだけだ。独神なんだからな」
「安心しました」
「……何が」
声色がはっきりと低くなり、イワナガヒメは言い繕った。
「いえ、なんでもありません」
「どこに安心したんだよ」
わざわざ追究するほど怒っているらしい。言葉を選びながら慎重に答えた。
「恋人を作る様子がないようなので……。いえ! ずっと同じ独り身でいて欲しいとは思っていませんよ? 主《ぬし》様のような方がずっと独り身なんてあり得ませんし……」
「ずっと独り身ってなんだよ」
「ですから、ずっとではないと」
「あんたは予定ないわけ?」
「ご存知でしょう。私を見初めてくれる方はいませんわ」
責め立てられた挙句に触れられたくない過去まで引っ張り出され、イワナガヒメもむきになった。
「私は主《ぬし》様とは違うんですの」
「私みたいになったって良い事ないだろ。言い寄られたって断るだけだ」
「一度お受けすればよろしいではありませんか。主《ぬし》様を求める方は沢山いらっしゃるんですよ」
「めんどい」
「すぐそんな事を言って」
「あんたもだろ。いつまで自分を卑下するつもりだ」
「主《ぬし》様に、私の気持ちなんてお判りになりませんわ!」
「なら一生言ってろ」
吐き捨てた独神はすたすたと障子へ向かう。手のない白無垢姿のまま。
「何をなさるおつもりですか。その恰好で外へ行くのはおやめ下さいまし!」
「そのへんの暇人に婿役でもやらせてみる。物は試しだ。私もその気になるかもだろ」
イワナガヒメは想像した。
自分が縫った白無垢で独神が誰かと愛を誓う姿を。
「お、お待ち下さい!!」
思わず抜いた剣はすっぽ抜け、完成したばかりの着物に突き刺さり、独神は壁に縫い付けられた。
「ばっ……串刺しにする気か!?」
「すみません! すみません! すみません!」
謝罪しながら袖を引いた。
「行かないで下さい。他の方とは真似事でも嫁入り衣装を合わせないで頂きたいです!!」
「判ったからまずこの剣を抜け。足ぎりぎりだったんだぞ」
「すみません」
剣に伸ばした手が止まった。
「……本当に約束して頂けますか」
「するって」
「嘘ですわ」
「なんでだよ!?」
「私、嫁いでから帰らされたのですから、慎重にもなりますわ。主《ぬし》様が本当に私以外と式の真似事をしないのであれば、私に合わせた白い怒礼須《どれす》をつくって頂けませんか?」
「は? 怒礼須《どれす》って……あれの装飾鬼ムズだぞ。均等にひらひらを割り振るって地味でも出来上がりに大きく左右する。それを何ヵ所も。全工程を一人でするなんてとにかく時間がかかる」
「すぐに出来なくて良いんです。私ももう一度作り直しますので。主《ぬし》様とのお式を想って一針一針縫わせて頂きます」
「私の方が上手いからって落ち込むなよ」
「しませんわ。鍛錬と同じく何度も繰り返し練習させて頂きますので」
ようやく剣を引き抜き、独神は安堵でその場に座り込んだ。
「では私、もう一度挑戦してみますね!」
笑顔で出て行ったイワナガヒメが戻って来ないことを確認してから、大きな溜息を吐いた。
「……どうして式の真似事で満足するのかね。でも一応は前進か」
イワナガヒメの不器用さは手先だけではない。
独神が誰からの誘いも断る理由に気付かず、探れず、自身の気持ちを伝えることも出来ない。
「満足いく一着が出来るまで何年か付き合ってやるか」
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