全英傑小話-剣士-【双代】

ヤマオロシ    

 独神になって英傑達にチヤホヤされてベタぼれされるのは当たり前。
 それで「うひひひ」していたのも数ヵ月。
 チヤホヤされるって意外とつまんないものだと思った。
 食べ物と一緒。
 同じ味って飽きちゃうのよね。

 だから、そんな時に本殿に来て、

「アーン、何見てんだよ。擦りおろすぞ」

 と、ぶちかましてくれたヤマオロシには、ビビー! ときたのだ。
 こいつといると絶対面白いって。

「君! 私のダンナになんない?」

 当然私は早速唾つけておいた。
 ちなみに私、皆には向こう見ずな馬鹿といつも褒めてもらっている。

「オレ様より料理が上手くねぇヤツは帰んな」

 ……う。
 私、英傑と英傑で英傑をボコボコ生み出すのは得意だけど、材料と材料で料理を錬成するのってあんま得意じゃないんだよね。
 命を扱うとこは一緒だけども。

「ねえ、他のになんないの? お金とか、物とか」
「ハッ! んなものでオレ様をどうにか出来ると思ってんなら安く見られたもんだぜ」

 くぅ。
 やっぱすぐに攻略ってわけにはいかないか。
 良いじゃん。やっぱ困難な方が燃えるよね!

「じゃあいいよ。そっちの希望に合わせてあげる。でも料理って具体的にどうすれば私の勝ちなの?」
「アンタのお題は……ネギ料理だ」

 ネギ? 薬味でおまけの?
 よくご自由にって書かれたネギがうどん屋にあるけど、私めんどいから入れたことない。
 所詮脇役じゃんネギって。

「……もっと別の」
「ネギ料理でオレ様が万一負けを認めることになったら、結婚してやってもいいぜ」
「するする! 勝負、するー!!」

 良いじゃんネギ。やったろうじゃないの!
 それからの私は、仕事を適当にこなしながらネギについての知識を増やしていった。

「ねー、ヒエダアレイ。君の見たことあるネギ図鑑ってこれでホントに全部なの?」
「書物として残っているものは全てですよ。あとは私の記憶の中に」
「それ、紙に書き写してよ」
「え。……いえ、それはちょっと……面倒です」
「私が頼んでるのに? んー、じゃあ終わったら二人きりでお出かけしてあげる!」
「んん……。はぁ、判りましたよ。但し時間は頂きますからね」
「ありがと!」

 ネギといえばでっかいネギとちっさいネギの二つだけだと思ってた。
 でも本を読んでいくうちに、ネギには沢山の種類があるって知ったの!!

「アスガルズにもありますわよ。見た目はリーキが近いですわ」

 と、異界のネギ情報も得られた。
 ネギ本体の情報を得ながら、ネギ料理の情報も入手する。
 これは本ではなく家庭料理を調べていく方が良い。
 同じネギでも地域によって味は変わる。
 家庭料理を調べていく事でそういった地域差をも理解することが出来るのだ。

「僕に乗れば八百万界中スイスイ行けるよ。えへへ、凄いでしょ、偉いでしょ」
「まあ、八百万界中を見られるし。良いぜ、ご主人のこと、どこまでも連れてってやる」

 海はミズチ、空はジロウボウを使った。
 独神に行けない場所などないのだ。

 いろいろな情報を集めた後は、ようやく実践に入る。
 今までの知識を総動員して、究極至高のネギ料理を作るのだ。

「独神さま……。またネギを食して……。わらわの愛らしい鼻が曲がるではないか」

 ネギへの道は高く険しいものだった。
 付き合ってくれた英傑達が次々に脱落していく。

「ヒミコごめん。……じゃあ、お伽番変更で」
「判った判った! もう少しやろう。……はあ。せめて日をあけてくれぬかのぉ」

 私がなかなか結果を出さないものだから英傑達も焦れたのだろう。
 ヤマオロシに直接ものを言いに行く者もいた。

「上様が毎日毎日ネギネギネギって、てめぇのせいだろ! 何食ってもネギの味しかしやしねぇ!」

 魚の臭みをとるのにネギはどうか、と毎日持っていってあげたことをあんなに喜んでくれていたのに。
 魚好きなイッシンタスケはネギに嫉妬するようになってしまった。

「良いだろ? 本殿がネギ色に染まってオレ様のネギも笑ってるぜ」
「ここ悪霊討伐の本部だからな!!! 判ってんのか!!!!」

 英傑達が「頼むからもうやめてくれ」と私を心配していたが、私は諦めなかった。
 ネギには無限の可能性がある。
 それを英傑達に伝えたい。

 ────ネギをもって世界を制する。

 これまで私がネギと向き合ってきて、気付いたことだ。
 ネギの切り口が丸いのは、世界を表していたのだ。
 どこを切っても丸いのは、刻んだはずなのに輪が繋がってしまうのは、世界の連続性を意味し、世界と世界が繋がっていることを意味していた。
 英傑も悪霊もなく、私たちは同じ、ネギなのだ。

 ネギは身近なものだ。けれどネギの心は遠い。
 知れば知るほどネギのことが判らなくなった。
 こんな私がネギの本質を世界に伝えられるはずがないと心が折れる時もある。

「私なんて……私じゃネギなんて極められないよ!!」

 台所でわんわん泣いていると、シュタッと現れたヤマオロシが怒鳴った。

「馬鹿言ってんじゃねえ!! そんな根性じゃ真っ直ぐなネギになれねえぞ」
「いい。私は曲がりネギだもん! 真っ直ぐになれなかったんだもん!!!」
「まあ悪くはない。って、そうじゃねえ!」

 ヤマオロシは私にネギを持たせた。

「ネギから逃げるな!!!」

 手の中のネギはにこりと私に微笑んでいた。

「……ヤマオロシぃ~~~~!!! ネギ様ぁ~~~~~!!!!」

 未熟な私の肩を、ヤマオロシはぽんと叩いてくれた。
 私、まだまだ頑張る。頑張れる! 
 世界にネギを!

……

…………

………………

「おーい……誰か言ってこい。ネギより魔元帥攻略しろって」

 独神達は知らないが、本殿や周囲の木々を倒して作った広大なネギ畑は、食卓以外にも恩恵をもたらしていた。

「……っく。なんですこの匂いは。私の混成獣《キメラ》たちが進めない……!!」

 本殿を突き止めたパズスたちであったが、ネギたちの香りに足踏み状態であった。

「こんな兵器を用意しているとは……。独神め」

オオクニヌシ    

 丸太を運んでいたオオクニヌシ。
 本殿での修理依頼はしていなかったはずだが、と独神は尋ねてみた。

「またどっか壊れちゃった?」
「ははっ。大丈夫だ。今日はまだ壊れていない」

 一先ず安心した。

「なあ、主君。もし住むならどんな家が望まれるだろう?」
「いきなりだなあ……。んー導線が良い」
「機能重視か。なるほどな。貴重な意見感謝する」

 そしてオオクニヌシは行ってしまった。
 きっと住民に家づくりを頼まれたのだろう。
 気にすることなく独神も仕事へと戻った。

 とある作業場にて。
 裁断途中の丸太が並び、端材の上に黒髪の少年が座っていた。

「スクナヒコ。どうしたんだこんなところに」

 戻ったオオクニヌシは丸太を下ろした。

「相棒こそ、なんだよこれ。お頭の命令じゃないだろ?」
「主君ではないな」

 親友に答えながら作業を始める。

「……でもお頭と関係あるだろ」
「……」

 スクナヒコは溜息をついた。

「相棒ならもっとあったろ? 商売上手で金持ちで人脈があって完璧なのによ」
「君が褒めるなんて酒代に困ってるのか?」
「茶化したって相棒が重症なのは変わらねえよ」

 小さな神は唸ってしまった。

「……君から見て、俺はいったい何をしていると思う?」
「セッカ」
「せっ? ああ、鳥か」
「巣を作ってメスに求愛するやつ」
「確かに。そっくりだ」

 はあああとスクナヒコは特大の溜息をついた。

「散々ひとを惚れさせてきたオオクニヌシが、とうとう落とされちまったわけか」
「主君には言うなよ」
「言わねえよ。おれまで殺される」

 独神もまた行く先々で心を奪ってくるので、恋敵は八百万界全土に存在する。

「主君の未来について考えていたんだ。あの通り多忙だが、悪霊を倒せば民と同じただのひと。本殿にいたんじゃ、ずっと独神のまま変われないだろう。だから住み家は別にあった方が良いと思ってな」
「けど未来妄想の形がこれって痛すぎるだろ……」
「そうだな。自分でもどうかと思う」

 笑うばかりで、スクナヒコに蔑まれようとも止める様子はなかった。
 後日、出来た家屋に独神を連れてきた。

「うわ。ここに家が建ったなんて全然知らなかったよ……」
「中を見てくれるか?」
「いいけど……」

 家が出来たから個人目線の感想が欲しいと言われて来ただけの独神は、新築に自分が入っていいものかと遠慮がちに入った。

「台所、広いんだね」
「料理も一人とは限らない。二人でも出来る仕様だ」
「ふうん」

「部屋多いね」
「物置にも子供部屋にも使えるだろ」
「まあそうね。部屋数多いと掃除大変じゃない? 一長一短かな」

「良い木使ってるね。声が聞こえてくる」
「穢れのない場所のものといると心が落ち着くよな」
「私も、そういうの敏感だから良いと思うよ」

「この部屋は?」
「夫婦の部屋だな」
「夫婦? あっそうなの」

 一通り見ていった結果、独神からの評価はおおむね良いものであった。

「もし自分が住むならって考えると、この家は凄く良いと思う。日当たりも風通しも良いし、私ってきっと客人が多いから客間からの庭が綺麗なのって重要なのよね」
「主君がそう言ってくれると安心だ」
「待って。私の意見でしょ。ここに入る人は違うんだから」
「違わないんだ」

 息を飲む音がした。

「家を作って求婚してる」

 独神は瞬きを何度も繰り返した。反応に迷っているようだった。

「俺を馬鹿だと笑うよな……。はあ……。すまない」
「あ、いや。ただまずは単純に驚いてる。そういうの考えたこと無くて」
「そうなんだよな。俺も最初は考えてなかった」

 緊張が解けたのか膝から崩れ落ちるオオクニヌシの隣に独神もしゃがんだ。
 不思議そうに顔を覗き込んでいる。

「主君はもてるだろう。沢山の浮名を流してきた俺なんかと比べ物にならないくらい」
「そうかな……?」

 考え込んだ独神は本当にそう思っていないようだった。

「だから普通では駄目だと思った。色々考えて、そして気付いたら」
「建ててたの?」
「建ててた」

 独神は噴き出した。

「もう、変なひと。考え出すと手が動いちゃうんだから」
「面目ない。動いてると落ち着くんだ」
「御屋敷一つ建てるって相当だからね?」

 ツボに入ったようで笑い続けている。

「……そっか。建てちゃったか。じゃあ住んじゃうか」
「主君……!」
「オオクニヌシは遊びに来て。とりあえず、お客さん一号ってことで」
「……判った。今夜行く」

 ────それから一ヵ月後

「お頭は何の疑問もなかったのかよ」

 独神の邸宅にある日当たりのいい縁側では、よくスクナヒコが酒瓶を傾けている。
 仕事がない日、独神は本殿ではなく屋敷で過ごすようになっていた。

「正直に言うと、贈り物に家は重すぎたよ。ここまでさせて受け取らない訳にはいかないって……」

 スクナヒコが傍のオオクニヌシを殴った。

「でも住み始めるとすぐに私に馴染んでくれた。私があって欲しい所に棚があって、部屋があって、何も困らないの。家の方が私に合わせてくれてた」

 気まずそうだったオオクニヌシもこれには口元を緩ませた。

「オオクニヌシが私のことちゃんと見てくれていたからこそ居心地が良かったの。……だから、きっと、オオクニヌシと一緒にいれば、居心地もいいのかなって」

 オオクニヌシと婚姻を結んだわけでは無いが、部屋には私物があらゆる場所に置かれ、時間が合う日は二人で過ごしていた。

「けっ。結果的に大成功ってわけかよ」

 吐き捨てながらも、その横顔は寂しそうだった。

「スクナヒコも一緒にどう? 部屋いっぱいあるから」
「(……相棒、困ってんな。お頭も無自覚に酷ぇからな……)」

 二人の顔を伺った上で答えた。

「おれもここに引っ越すぜ!」
「遠慮しろスクナヒコ!!!!」

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