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オイナリサマ
今まで誰かに好きって言われてばっかりだった。
時には出かけた先で待ち伏せされたり、どこへ行くにも追いかけられてみたり。
そこまでされちゃうとちょっと迷惑で、困っちゃうけれど、好かれていることはとっても嬉しいことなの。
だから、私がこんな気持ちになるって初めてで、どうしたら良いか判らない。
「ぬーしさんっ。今日は外に行く用事ってないの?」
私が今、だいだいだーい好きなのは、独神のぬしさん!
冷静で何事にも動じないひとなのだけど、結構抜けててそこがとっても可愛いの。
「今日はずっと本殿だよ。悪いね。外に連れて行ってあげられなくて」
「ふふ。良いの。だってわたしお伽番なんだから、ぬしさんのこと支えるのが仕事よ」
ようやく順番が回ってきたお伽番のお陰で、ぬしさんとは一日一緒!
本当は一緒にお買い物をしたかったけど、ここでだってやりようはある。
「机にかじりついてばかりじゃ疲れてるでしょ? オイナリサマの膝枕はいかが? もふもふつきよ♪」
今日の為にと必死に手入れしてきた毛並みで、今日こそぬしさんを骨抜きにしてあげる。
「気持ちはありがたいんだけど、膝枕じゃ書けないからね。そういうのは休憩時間だけにするよ」
早速玉砕。
そうなの。ぬしさまってお仕事に一生懸命で真面目なの。
そういうところ好きだけど、難易度を上げてる要因でもあるのよね。
休憩に入っても、ぬしさんは膝枕を断って机で読書をしている。今日は歴史みたい。
普段からよく読書をしていて、ミチザネちゃんやタイシちゃんと本のことで話している。
ぬしさんに駆け寄ってもらえる二人が羨ましくて、……ちょっと妬ける。
わたしも挑戦したけれど、少し読んだら飽きてしまった。
ぬしさんに教えてと言ったけど、これは難しいからと子供用の本をおすすめされて終わった。買ったけど、面白さは判らないし、会話についていけるわけじゃなくてがっかりした。
わたしはなかなか可愛いと思う。でも本殿にはそんな子がごろごろいる。
いつもなら何もしなくてもわたしを好きになってくれるのに。
ぬしさまの目はずっと、あっち向いてる。
どうしたらわたしを好きになる?
わたしの気持ちを分けてあげたいよ。
そうしたらきっとわたしが好きで好きでたまらなくなるよ。
もっと一緒にいたら好きになる?
悪霊をたくさん倒したら好きになる?
それとも可愛くなったら好きになる?
心と身体をあげたら、好きになってくれる?
「無理。唐変木だから」
なんてトドメキが言ってたっけ。
どんなに煽っても絶対に手を出してこないからって。
実感がこもってたのはきっと、自分が試して駄目だったのね。
どんな気持ちで試したんだろう。
わたしも、出来るの、かな……。
「ぬしさん! 巣禍亜斗《スカァト》の中を見れば疲れが吹き飛ぶって! わたしの追っかけが言ってた!」
「やめなさい。私はそういう趣味ないから。……それはそれとして、その追っかけの名前後で教えておいてね。大丈夫大丈夫。ただ気になっただけだからね。気にしなくていいんだよ」
トドメキの言う通り。
恥ずかしいのを我慢して言っても、ぬしさんは赤くなってくれない。
わたしばっかりって、ずるいよ。……寂しいよ。
ぬしさんを落とす案はことごとく失敗して、夜になってしまった。
「お疲れ。もう仕事は終わりだよ」
「じゃあぬしさん一緒にご飯食べよ!」
「ごめん。生憎きりが悪くてさ。こっちは気にせず食べておいで」
「それなら待つ。終わるまでずっと待つ!」
「それ食事当番からすると迷惑だから。……いいから。行ってくれると私が安心する」
釈然としないまま、お夕食を頂いた。
食べた後も食堂でずっと待っていたのにぬしさんは来てくれなかった。
本当に忙しくて、お伽番が邪魔なのかもしれない。
わたしは絶対に邪魔をしないことを心に誓って、そっと執務室へと戻った。
お茶を運ぶくらいなら許してくれると信じて。
執務室には明かりはなかったけれど、狐の要素もあるわたしはちゃんと闇の中の出来事が見えていた。
ぬしさんは机をじっと睨みつけていた。
大きく見開いた眼から涙が流れていて、わたしは反射的に部屋に入ってしまった。
「お。オイナリサマか」
「違います」
わたしは淹れていたお茶を置いて、ぬしさんの机の前に座った。
ぬしさんはわたしを見て迷惑そうだったけれど、追い出す事はなかった。
「……こんなことすべきじゃないって判ってるんだ」
大きな溜息をついて、ぬしさんは言い訳をするように早口で言った。
「指揮官が泣くべきじゃないのに、考えると溢れてくるんだ。どうして私は冷静でいられないんだろう。もっと頭があれば良かったのに。まとめ役なんて、英傑の方がよっぽど向いてる」
ぎゅってしてあげたい。
でも耐えた。
優しくしたら消えてしまうような気がして。
わたしは、頭を抱える"民"に静かに語る。
「わたしが有名なのは知ってるよね。界中で祀ってもらってて、願い事もいっぱいされるの。お願いされたからってわたしが何かしてあげるわけじゃないのにね、翌年には上手くいきましたって言いにきてくれるの」
唐突な話にも関わらず、ぬしさんは聞いてくれている。
「わたしという神がいるから、安心して縋って、前を向けるんだって。
あるじさまもそういう存在なんだよ。私たち英傑にとっての。だからさ……」
わたしはぬしさんみたいに上手に話せない。
気持ちだけが溢れていく。
「えーっと。わ、わたしとしては泣いているからってあるじさまが駄目とか思わなくって。寧ろその……。弱味を見せてくれると、もっと頑張れるっていうか……。
悩んでいるのにごめんね! わたしだって役に立ちたいんだもん! 実感が欲しいの!」
俗物狐って思われちゃったかも。
「……ありがとう。オイナリサマ」
「コンコーン。お礼は油揚げで良いよ。うんと美味しいやつよ!」
「判った。八百万界一の油揚げを送るよ」
そこからはさっと部屋を出て行った。ついていかないよ。
きっと、一人でいたいだろうから。
……わたし間違ってないよね?
お礼をしてくれるなら、口付けが良かったけど、ここは我慢で良いんだよね。
だってあるじさまが大変な時に付け入るようなまね卑怯だもんね。
あるじさまも、なんだかすっきりとした顔してたし。
ああ今なって勿体ない気がしてきた! もう!
こんなに好きなんだから、わたし以外の子と付き合ったりしちゃ絶対にだめよ?
スズメ
「おはようございます。雀惣兵衛さん。足を痛めたって心配していたんですよ」
一匹の雀がスズメの肩に乗り、そっと耳打ちした。
「ふむふむ。ふうん。……え!? それは本当ですか!?」
あまりの大声に集まっていた雀たちが一斉に飛び立ち、そしてまた元の位置へと着地した。
「なんということですか……。主さまに恋人がいらっしゃるなんて!?!!!!」
本殿所属英傑スズメ、絶賛独神に恋愛中である。
「嘘ですよね? ……いや、雀惣兵衛さんの情報に間違いがあるなんていやいやでもでも」
ぶつぶつぶつぶつぶつ。
その間、雀たちは撒かれた米(タワラトウタ米)をつついた。
「……ま、まあ……主さまですから、恋だって……そのうちけっ」
尋常でない胸の痛みにスズメは膝をついた。
「……世の中悪人ばかりです。万が一、主さまが騙されていたら大変です。その時は僕が不届き者を抹殺しなくてはなりません。英傑として。そう、英傑としてです!!!」
闇に染まった目を輝かせてスズメは立ち上がった。
「そうと決まれば、今日は主さまを張り込みです! 皆さん、お礼は奮発しますのでどうか僕にご協力ください」
まずは執務室。
「基本的に主さまはここを動きません。来るのも英傑達が主です。エンエンラ曰く、今日は外からのお客さんはいないみたいですよ」
予定を把握している現お伽番のエンエンラに聞くとすぐに教えてくれた。ついでに「
主に恋人? しかも騙されているかもしれないって。……それは困ったね。うん。困った。だったら私も協力しよう。善良な主を騙す者は消してしまわないとね」と、共に行動することを誓った。執務室で得られる情報は全てスズメに流れる手はずになっている。
「仲が良いのでエンエンラも疑っていましたが白のようです。僕への報告する前に相手を燻し殺しそうな勢いでしたし」
スズメの見立てでは恋人は英傑である。
何故なら独神には出会いがないからだ。
それに来客が少しでも下心を見せれば全英傑が牽制する。わざわざ夢枕に立ちに行く者も。
そんな障害を乗り越えてでも独神に恋心を抱くものなど皆無である。
そんなことをしては独神が婚期を逃すことになろうが、この本殿に独神と結婚したくない英傑など一人もいないので相手に困ることはないだろう(※スズメ個人の考え・願望であり、実際とは異なることがあります)
「あれは……アシヤドウマン!」
怪しい英傑その壱。
本殿に来た当初から独神に気安く声をかけ、月一の祭事では独神と二人きりになる機会を虎視眈々と狙っている。
独神ガチ勢という美しくない勢力の中でも特に目障りな英傑である。
「主人。今日も美しいな」
いつもこうして馴れ馴れしく独神に声をかけるのだ。
手を取ろうとすると、エンエンラが自身の一部を煙にして惑わしていた。組んだのは正解だった。
「……大体あるじびとって何ですか。あるじか、しゅじんでいいじゃないですか。自分だけの呼び方を使う事で目立とうという事ですか」
独自の呼び名というと、
我が君(マガツヒノカミ)、団長サン(ブリュンヒルデ)、独神くん(オジゾウサマ)、頭領さま(ツナデヒメ)、師匠(ワニュウドウ)、ドクちん(シーサー)。
等がいるが、今のスズメの敵意はアシヤドウマンのみに向かっているので些細な事である。
「諦めて出て行きましたね」
しつこい性格なのは本殿中に知られているので、警戒は必要だが今は良いだろう。
入れ替わるように次の英傑がやってきた。
「タマヨリヒメさん! ……彼女は無害でしょう」
確かに独神の腕に抱き着いていたり、二人で買い物をしたり、自作の服を送って自分好みに独神を仕立て上げたりと危険な英傑ではある。しかし。
「……やはりオオワタツミさんが来ました」
保護者が同伴している状態で独神と間違いを起こす事はないだろう。
オオワタツミは毎日海の様子を見に行き務めを果たすほど真面目な英傑だ。
「……見間違いでしょうか。鼻の下を伸ばしていませんか?」
隣にタマヨリヒメ。その隣には独神。これを世間では両手に花という。
絶世の美女である娘と、英傑殺しの独神がいれば気分が舞い上がってもおかしくはない。
真面目なオオワタツミであっても魔が差すことはあり得る。
「なんだか無性に腹が立ってきますね。……いやいや。いけません。勝手に好き放題良し悪しを判定する僕の方が間違ってる」
オオワタツミとタマヨリヒメのことは、そのまま見守るに留めた。二人は退室した後はまた討伐に行くようで、やはり真面目に務めを果たしていた。そんな二人を疑って恥ずかしさを覚えた。
「いっそ最初から失礼極まりない英傑ならば、僕も遠慮なく斬りかかれるのですが」
次に来たのはミツクニだった。
「ミツクニさん!? ……む、難しい人です。軽薄な方ではありますが、僕にも雀たちにもよくしてくれます」
静観しようとスズメは心を落ち着けて見ていた。
がしかし、ミツクニの顔が独神に近づく度に剣を投擲したくてたまらなくなる。
そわそわしているとエンエンラが剥がして外へ追い出していた。
「そもそも英傑の皆さんは主様と距離が近すぎます!」
それもこれも独神が誰にでも友好的だからだ。殺人者だろうが、呪いの塊だろうが、黄泉の者だろうが分け隔てなく接する。だから突出した能力故に大衆からはみ出すことも多い英傑達には安心して心を休められる拠り所なのである。
「……あ、ネンアミジオンさん。彼なら」
ただの世間話で終わった。と思ったら二人でお茶を淹れている。特におかしな点はない。それでも心が締め付けられる。
誰と何をしたのかは関係ない。
自分以外の誰かと独神が親しいことが嫌なのだ。
酷い自己嫌悪に陥る。
「何してるの?」
「主さま!? なんで!? あ、いえ、その……」
嘘を吐きたい。
監視をしていたなんて言えば独神に嫌われる。でも嘘を嫌う自分が嘘を言う矛盾に耐えられそうにない。
「……すみません。主さま。僕さっきまで君を監視していました」
「知ってる」
顔から火が出そうだった。
「でもきっと何か理由があったんでしょう? スズメが悪趣味な監視なんてするはずないもの」
綺麗な笑顔が罪悪感を増幅させる。
「……あ、主さまに恋人がいると聞いて……悪趣味な監視をしていました」
情けないことを一番見られたくない人に晒さなければならない。
独神は大きく笑った。
「恋人なんていないって。みんなして私が誰とお付き合うするかが気になってしょうがないのね」
笑っている。
「監視も気にしなくて良いよ。私こういうの月に三回くらいあるから」
約一週間に一度である。
「大変申し訳ございません。僕のことは舌を抜いて干物にでもして下さい!」
「しないよ。大袈裟だなあ。私は見られて困ることなんてないから好きに監視すると良いよ。……あ、でも偶に極秘の任務を進めている時もあるから気を付けて」
「承知しました!」
と言って執務室へ戻っていった。
独神が再び仕事に取り組み始めると、スズメは大きく溜息をついた。
酷い日であった。だが収穫もある。
「監視しても良いって……。僕が主さまを知ろうとすることを悪く思っているわけではないんですね」
恋人はいないと本人から言質を取ったことで少し安堵した。
「でも今後は判りません! 悪い虫がつかないように怪しい者達には目を光らせていないと」
そして出来れば、今度は監視するのではなく、監視される方へ回ってみたい。
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