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街の明かりも消え始めた裏通りの路地で、カラスが待っていた。
人通りもなく、建物の影に身を潜めるように佇む姿は、昼間の傲慢さを微塵も感じさせない。
「頼んでた独神の情報はどうだ」
カラスは首を振る。
「チッ、ふざけてんじゃねぇぞ。何のために手前と独神を会わせたと思ってんだ」
独神へ探りを入れたかったオオタケマルにとって、素直についてくる独神は邪魔だった。
冷たく接し続けると、案の定距離をとって様子をうかがうようになった。
ご機嫌取りの材料を探すはずだと考え、独神の行く先で行方不明事件の話をさせた。
そうやって時間をかけて仕込んだのである。
収穫がないとは言わせない。
怒り心頭なオオタケマルに、カラスは必死に身振り手振りで何かを伝えようとする。
長々と続けていると、オオタケマルもおかしいと気付き始めた。
カラスの様子からすると、声が出ないのかもしれない。
そんなこと普通はあり得ないが、相手はあの独神である。
「……。独神の仕業か」
カラスは激しく頷く。その動きには怯えが混じっている。
「がはははっ。あの女やるじゃねェか」
自分の笑い声が、予想以上に愉快そうなのに気付く。
いつの間にか独神の一挙手一投足に、こうして一喜一憂している。
「笑い事じゃないだろ。あの女、英傑を従えるだけしか能がねぇって嘘だろうが!」
カラスは興奮しながら罵った。声までは奪わなかったようだ。
「殺す方が楽だってのにまァ、より残酷なことするじゃねェか。嫌いじゃないぜ」
殺すのは簡単だ。だが敢えて命を奪わない。
それが出来るのは強者だからだ。圧倒的強者。それが独神という女だった。
このやり取りでさえ、既に独神の掌の上で転がされているのかもしれない。
「もうオマエには二度と関わらない。これ以外俺には許されてないからな」
カラスは額に汗を浮かべながら、必死に"許された"言葉で伝えようとする。
「オマエ、…………自分が英傑であることをもっとよく噛みしめた方が良いぜ」
そう言い残して、カラスは飛び去っていった。その背中はどこか哀れだった。
オオタケマルは独神の能力の一端を、改めて思い知らされていた。
今日の戦いもそうだ。
術に対する造詣が深く、対応できる技術がある。
そして何より、術師でありながら前線に出て、誰に対しても物怖じしない。
時折見せる威厳は、かつての面影そのものだ。
「あなたは見捨てたんです。私たちは、守るべき民ではないと」
その言葉を聞いた時の独神の表情は、確かに揺らいでいた。
弱点は英傑だけではない。過去の行いにも、突けるものがある。
(上手く利用すれば、上辺だけでなく屈服させられるだろうな)
その考えが浮かんだ瞬間、胸の奥が僅かに疼いた。
当面は課題ばかりだ。
とうとうフウマコタロウが姿を現した。
熱狂的な独神信奉者。独神曰く、今でも繋がっている唯一の英傑。
カラスへの口止め内容も気になる。
平和平和と馬鹿みたいに繰り返すくせに、実際は手段を選ばない冷酷な面がある。
足蹴にされながらもオオタケマルに同行することにも、必ず意味はあるが、まだ判らない。
(判らねェ。何もかも判らねェままだ)
不信感は募るばかりだった。
だが、その不信感の奥底で、別の感情が蠢いているのも確かだった。
オオタケマルは夜の闇を睨む。
屈服させたいのか、屈服されたくないのか。
己の本心すら、もはや判然としなかった。
二話はここまでにしようかな。
思ったよりこの話が長くなってしまったから。
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