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突如、丁寧な声が響き渡る。
独神の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
(釣れた。霊力の大きさからいって幹部以上)
三人が声のした方を振り向くと、階段状に設えられた広間の一番高い場所に、異国の衣装に身を包んだ男が立っていた。
黒装束の部下たちが両脇に控えている。
地下広間に集まっていた客たちは慌てて道を開き、次々と頭を下げていく。
「首領様」という囁きが、波紋のように広がっていく。
取引の客たちは皆、首領の前ではひれ伏すしかないようだ。
「今日は珍しい商品が紛れ込んでいたようで」
男の眼差しは独神に向けられていた。
その瞳には仄暗いものが渦巻いている。
「驚きましたよ。まさか、かつての有名人がこんなところに」
独神が表情をぴくりと震わせた。
オオタケマルは扇を構え直した。
その横で、コタロウの手に握られたクナイが僅かに光を放つ。
首領は微笑みながら一歩前に出る。
地下広間の灯りが、その外套の金具に不吉な光を映す。
「貴女のおかげで、私たちの商売はずいぶんと苦しくなりました」
周囲の客たちが、ざわめきを上げる。
「英傑たちを集め、海からやってきた強大な敵を退けた。そして多くの悪事を潰していった。素晴らしい手腕でした」
首領の声には皮肉が滲む。
その言葉一つ一つが、毒を含んだ刃のように独神に向けられていた。
「ですが、貴女の行いで、多くの人の生活が破壊された。私もその一人です」
「ひとを売り物にする商売なら、潰れて当然よ」
独神は冷たく答える。
「おや、まだその口調。英傑たちを失い、力を失ったと聞いていましたが」
独神は布に開けられた穴から睨んだ。
「あなたがいなくなった後、英傑たちはバラバラになった。今やあなたは、その男の道具として生きているだけと聞きましたよ」
首領は嘲るようにオオタケマルを見る。
その視線に、オオタケマルは敵意をコタロウから完全に移した。
かつてない緊張が、広間を満たしていく。独神は客たちの視線の変化を感じ取っていた。
最初は好奇の目、そして欲望の目。今は歪んだ殺意すら混じっている。
(ここまできたら隠す必要もないわね)
独神は、ゆっくりと被り物に手を掛けた。
布が落ちる。その瞬間、広間が一瞬静まり返り、そして一気に騒然となった。
恐れと憎しみ。欲望と殺意。様々な感情が渦巻く中、ひときわ大きな声が上がる。
「独神!! ブッ殺してやる!」
客の一人が独神へと走り、掴みかかろうとした瞬間、オオタケマルの巨大な扇で壁まで弾き飛ばした。
壁に叩きつけられた男は、そのまま動かなくなる。
「言ったよな。俺の物だって」
血飛沫が舞う。
それが合図だった。
広間にいる者が一斉に立ち上がる。武器を抜く音が、あちこちで響く。
首領の配下たちが次々と前に出てくる。それは数の暴力だったが、独神には分かっていた。
英傑の前では、それすらも無力だということを。
英傑たちは既に界帝との戦いさえ経験している。この程度の数など、物の数にも入らない。
オオタケマルは独神の前に立ちはだかった。
コタロウの姿は、いつの間にか消えていた。
「面倒なことになりやがった。御大、撤退するぞ」
巨大な扇を構え、独神を庇うように立つオオタケマルに、独神は首を振った。
その申し出は嬉しかったが、今は受け入れるわけにはいかない。
「ごめんなさい。"関係ない"あなただけで退却して」
独神の言葉に、オオタケマルは睨んだ。
何を考えているのかは判らない。
「……チッ。勝手にしろ」
オオタケマルは扇を納め、近くにいた男を殴り飛ばしながら背を向けた。堂々と出口へ向かう。
周囲からは、そんな簡単に帰すはずがないという視線が注がれる。
しかし誰一人、オオタケマルの退場を止めようとはしない。
それもそのはず。今や全ての注目は独神へと集中していて、英傑が減るのは大歓迎だった。
独神は胸を撫で下ろした。
これで良い。今日はここに、町の人々を守るために、そしてオオタケマルの機嫌を取るために来ているのだ。
面倒事に巻き込んで、今以上に素っ気なく接されるのは避けたかった。
それでも、せっかく庇ってくれたのに帰れと言ったのだから、きっと怒っているだろう。
後で殴られてあげるしかない。
「さて」
首領が一歩前に出る。薄暗い広間に、黒い外套がゆらめく。
その仕草には、勝利を確信したような余裕が滲んでいた。
「皆様。この高貴なお方を、どなたがお買い上げになるか、楽しみでございますね」
広間の熱気が一気に高まる。
殺意に満ちた敵意は更なる狂騒へと変わり、獲物を前にした貪欲な視線が独神に集中していく。
かつて表舞台の頂点に立っていた独神を手に入れようと、客たちは血走った目で舌なめずりしている。
独神は冷静に状況を見渡す。
秘術の使い手である独神は英傑ではないにしろ、術の類は得意である。
しかし、攻撃系の術はあまり得意ではない。
独神の分野は魂を操るものであって、地上での事象を曲げるものは違うのだ。
けれど弱音は吐いていられない。
無茶をしてでも、この闇取引は徹底的に叩かなければならない。
「では、競りの開始です」
狂宴の開始を合図にクナイが飛んできた。
首領が身をかわした瞬間、床から大地の怒りのような轟音が響く。
地面が盛り上がり、広間の床が大きく波打つように歪んでいく。
悲鳴を上げる間もなく、周囲の客たちが次々と飲み込まれていった。
「まとめて潰しちゃっていいよね。この取引を潰すのが今日の目的だから」
姿を消していたコタロウがにこにことしながら現れた。
独神は無言で頷いてみせた。
首領が高笑いを上げる。
「たかが英傑一人と、力を失った独神。それで我々が倒せるとでも?」
首領が右手を宙に掲げた。その仕草に呼応するように、広間の壁に設えられた搬入口が次々と開いていく。
最上層から始まり、中層、下層へと連鎖的に。
まず上層の搬入口から現れたのは十数人。
続いて中層からは三十人ほどが姿を見せる。
下層の大きな搬入口からは、さらに大勢の人々が溢れ出してきた。
合わせれば優に百人を超えるだろう。
老若男女入り混じる彼らは、それぞれの層から螺旋階段を使って下りてきては、広間の中央に集まっていく。
普段着のままの彼らの中に、先週失踪した魚屋の主人、その前に消えた呉服屋の娘、さらにその前になくなった大工の姿も見える。時系列順に上の層から下の層へと配置されているようだ。
彼らは戦いの素人だ。
独神の力でも十分倒せるような相手ばかり。
だが。
「待って独神ちゃん! あれは全部失踪したひとたちだ!」
コタロウの叫びに、独神は息を呑んだ。
首領を警護していた黒装束の部下たちが、町民たちの後ろに回り込み、包囲の輪を完成させていく。
客たちは壁際に下がりながらも、この先の戦いに血を沸かせているようだった。
「御名答、今日の集会には特別な準備をしていましてね」
首領が手を広げ、薄く光る糸が浮かび上がる。
同時に、広間の空気が一瞬歪んだように見えた。
独神の瞳が僅かに開く。その表情が一瞬で凍りついた。
(この気配……まさか、一血卍傑を……!)
今まで感じられなかった術の存在が、一気に意識に押し寄せてくる。
首領の指先から放たれる糸は、既に多くの人々に絡みついていた。今、その術が顕現したのだ。
さらわれた町民たちの目が次第に光を失っていく。
術に意識を支配され、操り人形のように変えられていくのが見える。
「ご存知でしょう? あなたはこの術を熟知していらっしゃる」
独神の表情が険しくなる。
命と命を繋ぎ、世代を紡ぐはずの尊い術が、ここでは人を操る鎖として歪められている。
その冒涜に、独神の内側で怒りが静かに煮えたぎっていく。
「ええ。この世で一番私が上手く使えるわ」
独神の声音は氷のように冷たかった。
「だから、他人が使うとこんな出来損ないの術に成り下がるのよ」
この歪められた術を、一刻も早く世から消し去らなければならない。
「コタくん。あの術は一血卍傑を模倣した失敗作よ。糸には触れないことを一番に考えて」
「了解」
コタロウは軽やかに身を翻す。その動きには無駄が一つもない。
術の糸を避けながら、少しずつ首領への距離を詰めていく。
「お優しい独神様は私の兵を傷つけられますか?」
首領の皮肉めいた問いに、独神は苦々しい表情を浮かべた。
だが、すぐに覚悟を決める。今は迷っている場合ではない。
術を解くには時間がかかる。その間、自分は無防備になってしまう。
「コタロウ! 私に構わず、糸を切れ!」
命令口調に、コタロウは目だけで了解と応じた。守るべき時と攻めるべき時、彼には分かっていた。
糸を切り裂くように動きながら、敵の注意を独神から逸らしていく。
独神もまた術を練り上げる。操られた町民たちが襲いかかってこようと、今は術に集中するしかない。
「この数は、ちょっと面倒だね」
コタロウは視線は首領に向けたまま、背後で小さく手を動かす。
独神にはその意味が分かった。部下へ指示を出しているのだ。
その直後、建物の四方から炎が上がった。
まず古びた柱が音を立てて燃え始め、次いで乾ききった床材に火が這うように広がっていく。
天井の梁が炎を受け、それが導火線のように伝わり、見る間に上層へと燃え広がっていった。
雨漏りで朽ちていた箇所は逆に防火帯となり、火の回りを一時的に遅らせる。
しかし、その分布は不均一で、ある部分は瞬く間に燃え落ち、別の場所はまだ炎が届いていない。
そんな状況下で、建物の歪みが徐々に大きくなっていく。
黒装束の部下たちは慌てて首領の下へと集まっていく。
が、もはや建物からの脱出は難しい。
四方の出入り口は炎に塞がれ、天井からは燃える部材が落ちてきていた。
一方の町民たちは、糸で操られているがために逃げることすらできない。
虚ろな目のまま、炎の中に立ち尽くしている。このままでは、彼らは全員死んでしまうだろう。
客たちは我先にと逃げ出していた。
「火を放つだなんてひどいですね」
首領の声が響く。だが炎の音にかき消されていく。
コタロウはニヤリと笑う。
「だって僕、忍だもーん」
軽い口調で言うコタロウ。
だが、独神には判る。
(私のコタロウは勝算なく火なんて放たない)
あとは自分が役割を果たすだけ。
その時、首領の術が独神を狙う。避ける余裕などない。このまま直撃──。
「手前らはそろいもそろって自決が好きだねェ」
オオタケマルの術が閃光のように放たれ、首領の身体を直撃する。麻痺した首領は術を放ちきれない。
その隙を突くように、独神の術が完成した。
「はぁっ!」
地面に術を叩きこむ。床に無数の文字が浮かび上がり、絡みついていた糸が消滅していく。
とたんに人々は我に返る。しかし、四方を炎に囲まれ、逃げ場はない。
「私の術なら、人々を守りながら脱出させることはできるわ」
独神は既に準備を始めていた。
建物の崩壊から人々を守る結界を張りながら、安全な脱出経路を作り出すための術を組み上げる。
その隙を突くように、コタロウが忍術を展開する。影がいくつもの分身となって首領を取り囲む。
「まさか、この程度の」
首領が新たな術を放とうとした瞬間、オオタケマルの放った術の効果が全てを決定づけた。
彼の体に残る麻痺が、術の発動を一瞬だけ遅らせる。
その僅かな隙を、一番の影が掴み取った。
「甘いね。術は強いかもしれないけど、体術は素人だ」
冷たく告げながら、コタロウの刃が首領の四肢を的確に切り裂いていく。
致命傷は避けながら、確実に術を放てないよう動きを封じていく。
そして最後に、地面に叩きつけた。
「私を殺すのですか。独神様。貴女の正義に則さないから」
地に伏した首領が、なお笑みを浮かべる。
「知っていますか。貴女の正義がいくら人々を殺したか。そして今も苦しめているか」
独神は黙って首領を見つめる。その目に憎悪はなく、ただ静かな悲しみだけが浮かんでいた。
かつて自分が作り上げた世界の影で、こうして苦しむ者たちがいたことを、当然独神は知っていた。
「悪霊がいなくなって平和になった。確かにその通りです。でも、その平和は私たちから生きる場所を奪った。護衛も、用心棒も、必要なくなった。ようやく見つけた道がこれだったのに」
首領の声は苦々しさを帯びながら続く。
「貴女は見捨てたんです。私たちは、守るべき民ではないと」
独神が立ち尽くす。
その時、オオタケマルが一喝した。
「来い!」
はっとして独神は我に返る。
コタロウが独神を抱き上げ、燃え盛る建物の外へと飛び出す。
「僕の部下が建物の外で待機してて、脱出路を確保してる」
コタロウは独神に小声で告げた。
「まあ、ここの連中が使ってた密輸用の通路をちょっと拝借しただけだけどね」
陽光の下、地面には倒れたひとが転がっている。会場の中にいた客たちだ。
その数の多さに、独神は思わず目を見開く。
「この方たち、オオタケマルが……?」
「俺の邪魔をした奴を片付けただけだ」
オオタケマルは素っ気なく言い放つ。コタロウが小さく笑う。
「僕の為にありがとー!」
霊力の狐が飛んできた。コタロウは軽々とかわす。
炎に包まれた建物が、大きな音を立てて崩れ落ちる。
その光が三人の表情を照らし出す。
建物から無事脱出した人々を見て、独神は安堵の表情を浮かべた。
「術が解けた人たちは、記憶が曖昧になっているはず。町に戻れば、数日の記憶がない程度で済むわ」
「そう。でもその分、首領の手下たちの記憶は残ってるよね」
コタロウの含みのある言い方に、独神は首を振った。
「放っておいて」
「アイツはいいの?」
首領のことだ。
「安心して。ちゃんと術が効いてる。火からも瓦礫からも守られているわ」
「そこまで気を使うんだ。独神ちゃんってほんと甘いよね」
ひとが焼けた匂いが風に乗って漂ってくる。
平和とは程遠い香りで、独神は目を伏せた。
「でもまさかここに独神ちゃんとオマケが来るとは思わなかった」
「そうだったの……」
納得している独神の横を霊力の狐が駆け抜け、コタロウに飛び掛かった。
「違ェな。手前が俺たちをおびき寄せたんだろ」
オオタケマルの声が低く響く。その姿勢からは敵意は感じられないものの、明らかな苛立ちが滲んでいた。
「ぼさっとすんじゃねェ。手前は餌にされたんだよ。ちったぁ疑え。相手は忍だろうが」
独神に向けられた言葉は、いつもの叱責よりも苛立ちが強かった。
「酷いなあ。僕は独神ちゃんの味方だよ。アンタよりずっとね」
二人の英傑がぶつかり合う瞬間、空気が震えた。
オオタケマルの扇が大地を割り、コタロウの忍術が影のように這い寄る。
空を切り裂くような音が響き、火花が散る。
クナイの雨が降り注ぐ中、オオタケマルは術で地面を盛り上げ、即席の盾とする。
だがそれは囮に過ぎなかった。真の狙いは背後からの奇襲だったのだ。
「遅ェな」
オオタケマルの嘲りに、コタロウは無言で応える。
普通の人間なら、その余波だけで吹き飛ばされるほどの力の応酬。
それでも二人は互いに致命傷を与えられない。
英傑同士の戦いは、そう簡単には決着がつかないのだ。
「だから害にしかならないアンタは排除する」
「うるせぇガキが」
やりあう二人を見て、独神は溜息をついている。
「手前の死体を御大に見せてやるよ」
「あ、嫉妬してるの? 心外だなあ」
「そりゃ自己紹介か?」
「僕たちが気になってずっと見ていたくせによく言うよ。しかも独神ちゃんが一番感謝される時に手助けしてくれちゃうなんてさ」
「二人ともいいかげんにしてよ」
しかし、二人はやめない。
独神は二人の間に割って入って、オオタケマルを庇うように前に出る。
二人はぴたりと攻撃を止めた。
「コタくん。退く気はない?」
「退くべきは僕じゃないよね」
「お願い。退いて欲しい」
独神は大きく頭を下げた。
二人の殺気が、周囲の空気を震わせる。
「風魔の組頭を退かせたいなら、それなりのものが必要だよ」
「なら元主があれだけ来るなと言っても、言うこと聞かなかった分を今返してよ」
「あれは偶然だよ。任務の途中でたまたま独神ちゃんがいただけ」
「面倒くせェ。切っちまえ」
「やめてよ」
と、独神は後ろのオオタケマルに向かって言う。その声には、いつもの従順さとは違う強さがあった。
そしてまたコタロウに向き直る。期待と懇願が入り混じった眼差しで。
「ねぇ。コタくん」
「じゃあ独神ちゃん、風魔においでよ。それなら僕は依頼もないのにコイツを殺す必要はないんだ」
オオタケマルの排除はコタロウ自身の意思。
独神が言うことを聞けば丸くおさまる。だが、それは出来なかった。
「……いや。風魔には行けないよ」
「甲賀や伊賀なら良いの?」
「どちらであっても行かない。もう関係だって断ってるの」
言葉を紡ぎながら、独神は自分の身勝手さを痛感していた。
もう主ではない。風魔を取りまとめるコタロウを、対価もなしに動かす資格などない。
それなのに、都合の良い時だけ昔の主として振る舞い、言うことを聞かせようとしている。
その矛盾に気付いていながら、それでも「お願い」と言って要求を通そうとする。
自分の中の醜さが、まるで鏡に映したように見えた。
コタロウもその葛藤を察したのか、ばつの悪そうな表情を浮かべる。
「独神ちゃんを苦しめたいわけじゃないんだけどな」
コタロウは肩を竦める。
その仕草には、独神と二人きりの時によく見せる少年らしさが残っていた。
「じゃあここは、僕が大人になって譲歩してあげる。その代わり、今後はしょっちゅう会いにくるからね。その時はそこの邪魔者はなしだよ」
コタロウは独神の気持ちを汲んで、ぎりぎりの妥協点を示してくれた。
だが一方で、このような甘えが許されるのも「コタくん」が相手だからこそだと分かっていた。
気がかりなのは、勝ち誇ったような笑みが一瞬だけ浮かんだように見えたことだが。
「ありがとう」
「調子良いよね。独神ちゃんって」
呆れながらも、笑って消える。独神はほっとした表情を浮かべた。
それに対してオオタケマルは毒づいた。
「……で、これが手前の言う、なんとかする、かァ?」
「……私だって周囲が思うほど有能でないわよ。相手は忍だし」
不服そうな独神の様子に、オオタケマルは黙って見つめる。
「忍と会う時は必ず俺に報告しろ。場所と時間も決めておく。それ以外での接触は許さねェ」
「そうね。あなたにはちゃんと伝えるわ。これで当面は大丈夫よ」
独神は安堵の息をつく。
こうして互いの利害が一致する形で事が収まった。
「昔からコタくんにはつい我儘言っちゃうのよね」
その言葉を口にした瞬間、独神は自分の軽率さに気づいた。
オオタケマルの表情が険しくなるのが見える。
「あなただって、忍の持つ情報網は欲しいでしょ? コタくんと繋がれば大抵の情報は手に入るわよ?」
オオタケマルの益を考えての行動でもあると今更主張したが、後の祭り。
「手前、アイツと組んで俺を潰す気か」
冗談ではなさそうだった。
オオタケマルは大真面目にそう言っている。
「…………………ど、どうしてそうなったの?」
まさかそんな風に取られるとは思ってもみなかった。
「私はこれでもあなたとコタくんと双方がそれなりに妥協できるところに着地させたのよ? あなたって単身で行動するが故に情報の仕入れが迅速ではないでしょ? どうせろくなことしかしないなら信頼できる情報網って絶対に必要じゃない」
何度も瞬きをしながら訴えると、しばらく間を置いて、オオタケマルは大きな舌打ちをした。
「手前の術中に嵌ってるようで癪だが、これ以上の収穫はねェし帰るぞ」
宿泊していた宿に戻ってすぐ、オオタケマルは独神に告げた。
「少し用があるから出てくるが、くれぐれも余計な真似すんなよ」
「判りました。心配しなくてもさっさと寝るわ。疲れちゃったもの」
独神は畳の上で大の字になって目を瞑った。
想定以上に重い術を使ってしまって身体が重い。
昔、こういう事件に気軽に英傑を派遣していたが、みんなは大変だったろう。
いや、だからこそ。
かつてのように英傑たちの力は借りない。決めたことだ。
決めたのに、私は、いつも……。
独神は考えることをやめた。
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