全英傑小話-鬼人-【降臨】

ヨルムンガンド    

 ヨルムンガンドは話下手でとてもスマートとは言えないが、独神を海に誘う事が出来た。
 
「静かだね」
 
 悪い意味ではなさそうだった。
 独神もヨルムンガンド同様、静寂を苦痛と思わないタイプなのだ。
 
「海の中ならもっと静かなんだぜ」
「へえ。気になるなあ」
「ならオレ様が……」
 
 独神を見て、ヨルムンガンドは言葉を切った。
 
「オマエ……。そうか水の中で息出来ないんだな」
「はは、そうなのだよ。竜宮城へ行った時も乗っていれば息が出来る特別な亀に乗せてもらったんだ」
 
 他人の話はどうでもいい。
 
「……独神だろ? なんとかならねえのか」
「いや。それは流石に。私だって万能じゃないよ」
 
 産まれた世界が違う。
 住む場所も違う。
 自分と独神の間には大きな隔たりがある。
 些細なことだろうが、気になる時には気になるのだ。
 
「じゃあさ! 用がある時は私が釣り上げるってのどうよ?」
 
 独神は竿を引く動きをした。
 
「はぁ? オレ様がオマエ如きに釣られるかっての」
 
 屈辱的だが、独神に限っては許せた。
 
「毎日釣れば出来るって! ……あ、だったらウラシマタロウに釣りのコツを」
「オレ様を魚如きと一緒にするな! 自分で考えろ」
 
 二人で釣りに来ては困る。独神が誰も連れてこないようにしておかなければならない。
 
「冗談だって。釣りは獲物との真剣勝負。私とヨルムンガンドで知恵比べよ!」
 
 知恵も何も独神を選んで食いつくだけの話だ。
 
「持ち上げられるのかな……。水面まできたらあり?」
「知るかよ」
 
 どうでもいいことだった。
 会いに来るならなんでもいい。
 なんなら自分から会いに行ってもいいくらいだがそれは秘密だ。
 
「……人魚って見たことある?」
「知らねえ……。海の広大さを知らねぇのかよ。陸地と違って他人と会わねぇのが普通だ」
 
 深海を好むので殆ど生物は見ない。
 
「人魚って色々噂があってさ、肉を食べると不老不死になるとか。だから、地上の者を人魚化する薬とかないのかなって」
「手に入れてどうすんだよ」
「ヨルムンガンドと一緒にいるに決まってんじゃん」
 
 照れながらもさらっと言ってしまう様にヨルムンガンドは黙りこくった。
 みるみるうちに赤くなる。
 
「……ドクシンさんには羞恥心ってもんがないのかよ」
「言わせたのはそっちでしょ」
 
 独神の挑発的な顔を歪めてやりたくて押し倒した。
 
「蛇は執念深いっていうだろ。さすがに逃がしてやらねぇぞ」
 
 半分冗談だがそれでも雰囲気の為に独神の腕をしっかりと縫い付けた。
 思ったよりも細腕で本当に変な気を起こしそうになるが、
 
「…………良いけど」
 
 独神は顔を背けた。
 急に露わになった首筋が気になり、襟の合わせが気になった。
 周囲に生き物の気配がないことを確認して、ヨルムンガンドは迷いながらも襟の重なりに手を伸ばした。
 
「あ。来客忘れてた」
 
 拘束がなくなった隙にすくりと立ち上がった。
 
「ごめん。悪霊の大事な報告があるからちょっと行ってくるね」
 
 行き場のない手がわなわなと震えた。
 
「そういうことはまた今度ね。ばいばーい」
 
 素早い動作で本殿方向へと走って行った。
 
「……今度っていつだよ」
 
 まさかのお預けだった。
 独神のことだから、今度がいつになるか判らない。
 だったらその今度を、今夜にしてやろう。
 部屋に乗り込んで独神が再び拒否しなければ、他所者の蛇が踏み込んでみても良いだろう。

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