元・八百万界の救世主は、今日も影から世界の平和を守っています2-1

「商人が動き出したわよ」

 宿の二階から、絹糸のように艶めいた髪の女が、中庭を見下ろしていた。
 少し色が褪せた着物を、これまた少しほつれた帯で締めている。
 纏った衣装と整った顔がツギハギのようであるが、それがまた独特の魅力となっていた。

 朝もやの中、中庭で二人の商人が荷物の最終確認に追われている。
 若い商人が荷物を積み直している。箱の位置を変え、紐を締め直す手つきは素人のそれだ。
 隣では年長の商人が帳簿と荷物を照らし合わせている。目の動きは素早く、長年の経験を感じさせる。

「どうだァ、御大。なんか気になるもんはあったかァ?」

 筋骨隆々な男は酒を飲みながら尋ねた。
 額には鬼の象徴でもある角が十本。首には斬首の痕がある。

「荷物の中身は絹物が多いわ。箱の大きさと形からの想像だけど」

 馬に荷物を積み直す商人たちの姿を注意深く観察しながら女────独神は答えた。
 長年の経験から荷物の中身を見抜くのは容易かった。

「なのにあの分厚い帳面。金を運んでいるのね。絹は目くらましなんだわ」
「ほう。手前てめえ)にそんなことまで判るのか」
「商人の立ち振る舞いを見ていれば判るわ」
「で、金の量はどのくらいだ」
「さあ。でも、南の港まで持っていくつもりなら、相当な額でしょうね」
「なるほどな」

 大男が薄く笑うと、盃の酒も揺れた。
 じっと見張っていた独神は突然目を開き、階下へと音もなく駆け下りた。
 空き部屋へ侵入し、先ほどまで見ていた年長の商人と宿の主人との会話に耳をそばだてる。
 襖の向こうから、緊張した様子の会話が聞こえる。

「ご主人、街道は大丈夫でしょうか」

 商人の声には不安が滲む。

「はあ、この時期は人も少のうございます。日が落ちる前には隣町へ着くでしょうな」
「いや、噂の鬼のことです。あの。…………オオタケマルが出るという話」
「あ、はあ……」

 宿の主人は言葉を濁した。その後商人が何を言ってもらりくらりと避ける。
 得られる情報はないと判断した独神は二階へと戻り、再び外の様子を見張った。
 肩を落としている商人を見ながら、独神がぼそりと呟く。

「商人さま。噂の鬼が怖いんですって。おかわいそうに」

 酒を飲んでいた男──オオタケマルは薄く笑う。

「ほう。なかなか面白ェ噂じゃねェか」
「ええ。……あなたの評判は相当なものよ。ここだってよく泊まれたものだわ」

 独神は呆れたように肩を竦める。
 昨日は随分と手間がかかった。
 宿の主人に女を使い、話術を駆使し、色を付けた金を積んでようやく泊まれたのだ。
 それもこれも、噂の鬼と瓜二つの男と一緒だったからに他ならない。
 男といえば「鬼なんざどいつもこいつも似たようなもんだろ」と言って、威圧的に主人に泊めろと迫った。
 丸く収めたのは独神の手腕だった。

 宿の主人は噂のオオタケマルが独神の連れる男と同一人物だと気付いているだろう。
 だがそれを口にすれば命はない。
 商人に問われても、言葉を濁して逃げるのも当然である。
 そして不幸な事に何も知らない商人は、恐怖の対象と同じ屋根の下で一夜を過ごしていたのだ。

「誉め言葉として受け取っとくぜ」

 当の本人は愉快そうにしている。
 気にするだけ無駄だと知っているのか、独神は商人の周囲にいる男たちに目を向ける。

「商人二人に護衛は三人。でも素人っぽいわね」
「ありがてェこった」
「帯刀の位置が自分の身体と合ってないわ。かと言って術師でもない。霊力の流れがまるでないもの」

 厳しい戦いが日常だった時代なら、こんな素人が護衛を務めることなどありえなかった。
 平和な時代が、人々の警戒心を鈍らせているのだ。

「相変わらずよく見えてやがる」
「あなたの道具だからね。こんなものよ」

 その言葉に、オオタケマルは一瞬目を細めた。
 だがすぐにいつもの調子に戻り、酒瓶を空にした。

「よし、そろそろ出るかァ」

 酒瓶を放り投げながら立ち上がると、刀を二本差して部屋を出ていく。
 意に沿わない者を何度も斬り捨てた刀は馴染んでいた。
 独神は鏡で身なりを確認し、喜怒哀楽の表情を一通り作って確かめ、後に続いた。
 舞台に上がる前の儀式のようであった。

 商人たちに気づかれないよう宿から出る際、独神は最後にもう一度、商人たちを見た。
 手際よく馬具を整えながらも表情の硬い商人頭、荷物の紐を結んでは解く弟、そして楽しそうに話す護衛たち。

(無駄な殺生だけは避けたいけれど……)

 二人は、商人たちが通るであろう街道を先回りした。
 八百万界一を誇る交易路とは思えないほど、人気が少ない。
 通行人の姿もなければ、動物たちの姿もない。虫たちだけがやかましい。
 それもそのはず、暑さに慣れていない北の国からの商人が南の港を目指すのは、この時期が一番辛い。
 灼熱の太陽が地上を焼き上げ、地面からは立ち上る熱気で、足元が揺らめいて見える。
 馬は疲れ、人は干上がってしまうこの暑さの中、歩く者の気力も著しく低下する。
 それは判断力の鈍りにも繋がっていた。

 独神は額にじんわり滲む汗を拭いながら、木陰に身を潜め、休憩を取る商人たちを観察していた。

「この街道、最近物騒なんです?」

 護衛の一人が商人頭に言った。

「ああ、噂では鬼のような男が襲ってくるそうだ」

 そう答えると、護衛たちが首を傾げた。
 特に若い二人の護衛は、まだ噂の深刻さを理解していないようだ。

「鬼、ですか?」
「商人を片っ端から殺して金品を根こそぎ奪うという噂だ」
「そ、それは困る。ならもっと護衛を増やしたほうが良かったのでは」

 護衛の男は声を震わせて動揺した。
 軽い気持ちで依頼を引き受けただけの素人であると、独神の読みは大いに当たっていたようだ。

「いや、数がいれば寧ろ目立つだけだ。最低限の人数でさっさと通り過ぎるのが得策だろう」

 残念だが、オオタケマルは商人らが宿に入る時から目を付けていた。
 色合いが地味であっても、着物の質でオオタケマルや独神は気付いてしまう。
 そして独神の予想ではあるが、護衛が少ないのは恐らく、費用を節約している。
 最低限の護衛に素人を使うなんて愚の骨頂。
 利益を優先する商人の性が、図らずも彼らの命取りになろうとしていた。

「兄者、このまま進んで大丈夫なのでしょうか」

 若い商人が心配そうに尋ねる。

「今からでも山道を行く方が」
「駄目だ」

 兄と呼ばれた商人頭が厳しく言い放つ。
 その声には不安が混じっていた。

「噂を気にして街道から外れれば、それこそ山賊の餌食だ」
「……申し訳ありません」
「とにかく休憩は短めにする。早く街道を抜けるぞ」

 不穏な空気の中、慌ただしく出立の準備をする者達を、オオタケマルは独神の傍でじっと見張っていた。
 獲物を狙う獣のような鋭い眼差しで、一行の一挙一動を見逃さない。

「いいカモだなァ」

 独神は黙って頷いた。

(それだけ平和になったのね、って喜ぶべきなのかしら)

 商人たちが進む先には、岩と岩の間を通り抜ける狭い道があった。
 両側の崖が高く、逃げ場は限られる。日陰のため視界は悪く、助けを求める声も届かない。
 その上、岩の隙間から時折砂が落ちてきて、馬が神経質に耳を動かしている。
 独神はこの場所で襲撃を決めたオオタケマルの慧眼に感心していた。

「もうすぐ町が見えるはずです」

 若い護衛が高揚した声を上げ、商人たちの表情が緩む。
 到着を目前にした安堵感が、彼らの警戒を完全に解いてしまった。
 護衛三人は馬の両脇と後方を固めているが、刀の位置は低すぎる。すぐには抜けない。
 商人頭は一番目の馬車に乗り、弟は二番目の馬車で帳簿を確認している。
 誰一人として、周囲に気を配っていない。

 木陰からの一瞬の動き。
 オオタケマルの影が商人頭の背後に滑り込むように現れた。
 巨体に似合わない素早い動きで護衛はおろか、狙われた商人頭でさえも認識が遅れた。

「動くな」

 低く唸るような声。商人頭は背後から首筋に刃を突きつけられ、硬直する。
 年若い護衛二人が慌てて刀に手を掛けるが、オオタケマルがそれを制した。

「抜けば、この男の命はねェ」

 年長の護衛が咄嗟に判断する。

「刀を納めろ! 急げ!」

 若い護衛たちは震える手を刀から離す。その目は、恐怖に見開かれていた。
 命のやり取りはおろか、肉体に恵まれた妖族や神族の経験もないのだろう。

「金を出しな。当然積み荷は置いて行けよ」

 オオタケマルは商人頭の喉元に刃を押し付けながら、場を支配していく。
 この位置からなら、誰も手出しができない。
 馬の両脇と後方を固めていた護衛たちは、オオタケマルと商人頭を挟んで互いに離れた位置にいた。

 その時、不意の動き。
 弟の商人が、背後の茂みへと逃げようとした。
 死の恐怖に理性を失ったように、がむしゃらに走り出す。

「駄目!」

 独神の制止の声が響く前に、オオタケマルの刀が一閃。
 熱気に満ちた空気を切り裂き、血飛沫が初夏の土を染める。

「兄者!」

 弟の悲鳴が木霊する。商人頭は道端に崩れ落ち、まだかすかに息をしていた。
 びくびくと身体を痙攣させながら、血に濡れた唇が言葉を紡ごうとする。
 護衛たちの手が再び刀に伸びる。だがそれは、ただの反射的な動きでしかなかった。
 瞳が絶望の色に染まっている。

「おっと。臆病者を見たら手が滑っちまったぜ」

 オオタケマルの薄笑いに、場は凍てついた。
 年長の護衛が若い二人の肩を押さえつける。
 この場で刀を抜けば全員が殺される。それは明らかだった。
 護衛たちは震える手で帯に引っかけていた革袋を取り出した。
 汗に濡れた手が、界貨をうまく取り出せない。

「これを! これを差し上げますから!」

 我先にと袋ごと界貨を差し出す者たち。
 自分の行動が兄を殺してしまったと絶望する弟は、地面に両手をつき、涙を流している。
 その涙は、血に染まった土に吸い込まれていく。

「ぁ…...」

 商人頭の最期の言葉。乾いた風に消えていく声。
 独神が一歩を踏み出そうとするが、オオタケマルの刀が遮る。
 刃先が陽を受けて、一瞬まばゆい光を放つ。

「手ェ出すな。見りゃ判んだろ。無駄だ」

 独神は静かに目を伏せた。
 まるで血に濡れた地面のように、その瞳は暗く濁っている。

「……殺さないって言ったじゃない」

 か細い声ながら、強い批判がこめられていた。

「大人しく金を出せばの話だ」
「でも彼はあなたを襲ったわけじゃないでしょう?」
「俺の命令に反したじゃねェか」

 二人が会話する間、誰も気づかなかった。
 弟の商人の目が、凶器を帯びていく様子に。
 若い護衛の刀を奪い、独神へと向かう。その動きに恐怖も迷いもなかった。
 独神は目を見開いたが、その場から動かない。
 刃が振り下ろされるのをただただ待っている。
 汗に濡れた着物が風に揺れ、まるで死を受け入れる踊り子のように見えた。

 その時、影が閃いた。
 オオタケマルの刀が、弧を描いて弟の腹を薙ぐ。
 血飛沫が宙を舞い、兄の血と重なった。

「なん、で」
「大人しく斬られてやるつもりだったんだろうがそうはいかねェ。こんな馬鹿より手前てめえ)の方がずっと大事だからなァ」
「大事なわけないじゃない」

 きっと睨む目は氷のように冷たい。
 その視線で宥めようとするが、オオタケマルの表情は崩れない。

「こいつだってよォ、殺した俺じゃなく、この場で一番弱そうな手前てめえ)を狙ったんだ。商人のくせに見る目がねェぜ。……御大の価値をまるで判ってねェ」

 独神は先程よりも強く睨んだ。
 雇い主がいなくなった護衛たちは逃げ腰だが、逃げれば斬られると思っているのか動いていない。
 独神が彼らに指示した。

「お逃げ下さい。……良いでしょ?」

 オオタケマルは死体から目を離し、帳簿を確認し始めている。
 すでに戦いは終わったという判断だ。

「有り金と積み荷がありゃ用済みだ」

 ずっと緊張の糸が張り詰めていたが、その一言で緩んでいく。
 オオタケマルは積み荷を見ることに夢中になっていた。
 独神は町の方を指差す。血の香りが漂う中、その仕草だけが妙に優雅に見える。

「逃げて。これ以上被害を増やさないように、何があったか町で伝えて。お願い」

 血に濡れた地面の上で、独神は涙を浮かべた。
 その姿は死体の転がる無惨な場所にあってなお、底知れぬ美しさを湛えている。
 涙に濡れた瞳がより一層その美しさを際立たせ、見る者の心を惑わせる。

 逃げていく護衛の背中を見送りながら、独神の表情が翳る。
 その優美な佇まいは、周囲の惨状と不気味なまでの対比を生んでいた。

「なにわざわざ広めてんだ。次の獲物が来なくなるじゃねェか」
「ねぇ。こんなことやめましょう。脅すだけならと思ってたら、二人も殺すなんて」
「はっ。随分まともなこと言うじゃねェか。独神」

 オオタケマルは鼻で笑っている。

「だが手前てめえ)は俺と変わらねェ。転がった死体に取り乱さねェ女がいるかよ」
「……それもそうね」

 死体を見ながら呟いた。その視線には、悲しみよりも何か冷たいものが宿っている。

「だからと言って、人を殺さないわ」

 静かに、しかし強い意志の込もった声で言った。
 風が吹き、独神の髪が揺れる。

「ちょっと私の案に乗ってくれない? 今以上に利益を出すから」

 その提案に、オオタケマルの目が僅かに細まる。

「やってみな。だが失敗したら、その時は覚悟しろ」
「判ってる。じゃあ、暫く大人しくしていてちょうだい。約束よ」


 その日から一週間後。
 日が暮れかけた茶屋の薄暗い座敷で、独神は給仕の女として商人の話に耳を傾けていた。

「あの道だけは安全だって」
「へえ」

 商人の目が僅かに動く。その仕草に、独神は密かな満足を覚えた。
 話を聞いた商人の表情が、僅かに希望を孕む。これが最初の一歩だった。
 別の日の茶屋。陽が高い時間帯に、違う商人たちの会話が交わされる。

「聞いたかい?」
「なんだい?」
「あの鬼の話さ」
「ああ、例の商人殺しか」
「でもよ、最近は変わったらしい」
「なんだって?」

 男たちは身を乗り出す。

「金だけ取られて、命は助かるんだとさ」
「本当かい?」
「ああ。逃げ出した商人から直接聞いたんだ」

 噂は次第に形を変えていく。恐怖は依然として残るものの、一筋の光が差し込むような希望が生まれ始めていた。
 宿では、さらに別の話を広める。
 夜の酒宴の席で、酔いに任せた商人たちの舌が緩む。灯火に照らされた顔には、打算的な思惑が浮かんでいる。

「襲われても、大人しく金を出せば命は助かるって。積み荷も通してくれる」
「へえ、そいつは耳寄りだな」
「オオタケマルの縄張りなら、他の連中は入って来ないだろうな」
「そうなんだよ! だから護衛分の費用が浮くんだよ!」

 商売人特有の損得勘定が、新たな選択肢を生み出していく。
 一人の判断が、次の一人を動かし始める。

「そう考えると、むしろ得かもしれんな」

 そして市場では商売の話に紛れて、さらに違う角度からの情報が広がっていく。
 露店の間を縫うように、毒薬のような独神の話術が染み渡っていく。

「最近はみなさん、あそこを通るみたいですね」
「そうなんですか?」
「ええ。襲われても命までは取られないって。積み荷も無事だし護衛もいらない。ってみなさんおっしゃってますよ」
「ほう……」

 情報は町から町へ、人から人へと巧みに広がっていく。
 茶屋の女将から商人へ。商人から宿の客へ。宿の客から市場の人々へ。
 まるで蜘蛛の巣のように、計算された経路で噂は伝播していく。
 オオタケマルはその様子を遠くから眺めていた。
 いつもの荒々しい表情に、僅かな違和感が浮かんでいる。

「手間がかかることしやがって」
「ごめんなさい。でももう少しだから」

 場所を変え、時間をずらし、少しずつ。
 策はもう独神の手から離れているが、時間の経過とともに人々の心を掴んでいく。
 恐怖を希望に変え、損失を利益に転換する。

「山道は盗賊が出るし、やっぱり街道が安全だよ」
「あの鬼も、最近は随分と丸くなったって話だ」
「金さえ出せば命は助かる。それなら構わんさ」
「護衛なんて雇うより、その分の金を差し出した方が得だろ。護衛を探す時間すら浮くんだぜ」

 一月が経つ頃には、街道の様子も変わっていた。
 気候が少し落ち着き、閑散としていた道に商人の姿が少しずつ増えてきた。
 馬車の轍が幾筋も重なり、道は賑わいを取り戻していた。
 オオタケマルの噂は、むしろ安全の印となっていた。
 護衛の数は減り、その分荷物が増える。商人たちは金を惜しむ分、より多くの商品を運ぶようになった。
 皮肉なことに、一度の襲撃で得られる金が増えていく。
 商人たちの表情にも、妙な安心感が漂っていた。
 死の恐怖は、ある種の取引への覚悟に変わっていた。

「命が助かるなら、金は惜しくない」
「街道には鬼がいる。でも、それは取引相手と考えればいい」
「むしろ決まった場所で決まった相手なら、安全と言えるかもしれん」

 人の心の機微を読み、恐怖を安心に変える。
 独神の計算は完璧だった。暴力による支配を、暗黙の了解による取引に変えていく。
 商人たちは自ら金を差し出し、オオタケマルはその金を受け取る。
 まるで、街道には新たな関所が設けられたかのようだった。



 ──夜、宿で独り酒を煽りながらオオタケマルは考えていた。
 月明かりに照らされた金の山を見つめ、違和感の正体を探る。
 確かに金は増えた。黙って手を出せば、金がどんどんと積み重なっていく。
 だが、何かが違う。

「くそっ!」

 手の中の盃が壁に当たって砕け散った。

「なに。突然どうしたのよ……。危ないから掃除するまでこっちに来ちゃ駄目よ?」

 従順に身の回りの世話をする独神の姿。
 その一挙手一投足が、今は癇に障る。
 優雅な仕草の裏に潜む計算。商人たちの心を掴む巧みな話術。
 全てが、独神の意のままになった。
 それはオオタケマルも例外ではない。

(なんで俺がこんな気分にさせられるんだ。これじゃ俺が御大に良いように使われたみてェじゃねェか)

 夜風が障子を揺らす。積み上がった界貨が、月明かりに冷たく光っていた。
 その光は、まるで独神の微笑みのように見えた。
 静かに、確実に、オオタケマルの心を蝕んでいく。

 酒で紛らそうとしても、この違和感だけは消えない。
 オオタケマルは、自分の中に芽生えた不安を、必死に否定しようとしていた。
 だが、否定すればするほど、その存在は大きくなっていく。
 まるで、独神の影が少しずつ自分を覆い尽くしていくかのように。

これは二話の一章部分です。
今後の更新で二章、三章と増えていきます。
予定ではあと三章分の追加で二話が完成です。

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