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シュテンドウジ
「うわあ……。呑んだわねえ……酷い」
酒瓶がごろごろと転がるシュテンドウジの自室で、独神はたまらず本音を漏らした。
部屋の主は床の上で横になっていて、肴もなくただただ酒に溺れている。
「大丈夫? 飲みすぎてない?」
「ああ!? これが素面なわけねえだろ! シュテンドウジ様をなんだと思ってやがんだ」
駄目だ。すっかり出来上がっている。
仕方がないと、独神は紅色と淡紫色の紐で縛った小さな包みを徳利の横へ置いた。
「血代固。そのうち食べて。明日の夕方以降にね。今食べたってどうせ吐いちゃうんだから」
「おーおー。貰っとくぜ。
はぁ……頭はまーた気ぃ持たせて回ってんな。新入りへの洗礼お疲れさん」
「気を持たせるとか、そういうつもりじゃ」
「わーってる、おれにはわかってるぜえ? 頭はマジでおれらのこと好きなんだもんなあ。
クソガキみてえな好意しかねェくせ、ずがずが他人の心に入り込みやがって。
なのに頭はしめーがどーたら、せきむがどーたらって……ほんと、マジでないわー」
ないないと繰り返す度に、独神の顔が少しずつ真顔になっていく事を酔っ払いは見てもいない。
「……あのねえ、私が皆を好きで何が悪いの?
将来を約束した相手以外に踏み込んじゃ駄目なの? そんな世の中薄情過ぎない?」
「逆ギレすんなよ。ガキじゃあるめぇし」
「年齢なんて知らないわよ。知ってるでしょ」
「へーへー、そーだったな。……うっ、出る」
「や、やだ。待って!」
とりあえずその辺に投げられていた手拭いでシュテンドウジの口元を抑えた。
あとは吐瀉物を受けられそうな盥のようなものはない。
「取ってくるから耐えてよ。お願いよ」
立ち上がろうとする独神の袖が容赦なく引かれ、乱れそうになる襟元を押さえた。
酔っ払いの手を無理やり開こうとするが、握力で岩を割るような鬼の手は解けない。
「もう! いいから開いて。せめて桶でも盥でも持って来てからにしてよ」
「やなこった」
「っ! 酔っ払いっ!」
流石の独神も焦る。そもそも今日は時間が無いのだ。
「なあ、かしら」
「何? 意識あるうちに放して。最悪袖切るけど」
「はっけつでおまえをきょうゆうすんじゃなくて、おれだけのとこにいてくれ、っていわれたらこまるだろ?
だからいわねーよ。なんでおれにだけくれねーのかとか。つきあってもねえのにおもすぎだろ。
んなの、このしゅてんどうじさまがいわねえっつの。
なんかよー、おおじょたいになるまえのこと、さいきんみょーにおもいだしちまうんだ。
なんでおれぁあんとき、もっとかしらといろいろしてこなかったのかって。
そうすりゃこんなにぐちゃぐちゃおもわずにすんだのによ。
でもまずはおまえを、しめーからかいほーしてやらねーとな。
いつかまた、どくしんのつらじゃねえおまえにしてやるから。
なーんにもかんがえず、まいにちさかもりばっかりできるようにしてやるからな。
……もうちーとだけきばってくぞ」
袖がするりと指から逃げた。
シュテンドウジはごろりと独神に背を向ける。
酒が無ければ素直になれない大男に、独神は込み上げてくる感情を堪えきれなかった。
「これからもシュテンドウジには迷惑かけるから。最後まで私に付き合ってちょうだいね」
「おーよ。おれがおまえのさいしょとさいごをみとどけてやんよ」
キンタロウ
キンタロウは思った。
最近、妙に荷物持ちを頼まれると。
町から都から持ち込まれる荷物の行先は何故か厨房ばかり。
はて、何かあっただろうか。
修練仲間のライデンに聞いてみた。
「そりゃばれんたいんだからだろ。かなりのやつが主(あるじ)に贈り物用意してるぞ」
だから、今日は甘い匂いで本殿中が包まれているのか。
「主(あるじ)さん! 俺には血代固はないのか!!!?」
「どうぞ」
キンタロウが少し力を入れただけで砕け散りそうな小さな包みをくれた。
「そちらから来てくれると助かるわ」
「なんだと!? では今一度返そう。今から俺が全速力で駆けていくから、主さんは追いかけてきてくれ、いいな!」
「良くありません!!!!」
独神はキンタロウの筋肉で丸々太った片腕を両手で掴んだ。
「私、あなたに早駆けで勝ったことある? ないよね?
一度でも惜しいなんて事ある? ないわよね?
途中でばてて私もあなたも怒られたことだけは、なんっっどもあるわよね??
……とにかく駄目! 絶対にここで受け取ってちょうだい」
「しかしだな……。その方が主さんも達成感があるだろう?」
「渡せただけで達成感でいっぱいだから大丈夫! 心配しないで! ありがとう! お腹一杯!」
「そこまで言うなら仕方がない、ここで受け取ろう」
観念してやると、満足そうに独神は笑った。
「いつもありがとうございます。これはほんの気持ちです」
そう言って、独神はばいばいと手を振った。
包みをばりっと破って中を見ると、一口サイズの血代固が五つ入っていた。
そのうちの一つを摘まむ。
「……うむ。うまいな。さすがは主さんだ!」
ライデン
「お、声がしたと思ったが大当たりだな」
ライデンがひょっこり現れると、後ろ手に隠していた薄紅色のちりめん細工の巾着を独神に渡した。
「これ、おれから主(あるじ)への血代固だ」
「ありがとう。これ、私から」
紫色の包みを渡すと、ライデンは感嘆の声を上げた。
「紫とは縁起が良い。勝ち色じゃないか」
「そう思って。最後まで紺と悩んだのよ。そちらも良いそうだから」
「そうか。ありがとな、主」
「あなたから貰ったこれ……巾着ごと貰って良いの?」
「ははっ、そうだぞ。まるっと主のもんだ。
……いやあ、なかなか骨が折れたぞ。
鍋なら自信はあるが、菓子なんて普段作らないからな。
それも主のような女人が喜ぶものとはさっぱり縁が無い。
色んな奴に助けてもらいながら、主が喜ぶように頑張ったつもりだ。
……いつも、ありがとな。おまえさんには感謝してるよ」
「私こそ。色々とお世話になっています。
未熟な私がやっていけているのは、あなたも含めたみんなが助けてくれているお陰だから」
「謙遜するな、主! おまえさんは十分働いてる。
常に仁愛を忘れず、己の役目を果たさんとするおまえさんは、最高の主だ。
だからこそ、ここまでついてきたんだ。これからも頼むぞ」
「ええ。頑張るわ。あなたたちの傍で、胸を張っていけるように」
「何かあってもおれたちがしっかり支えてやるから、どんどん頼ってこい。な!」
サンキボウ
「主(あるじ)サンこれ!」
突然の声に独神の息が止まった。
廊下を歩いている最中、天井から声と羽が落ちてきたのだ。
「驚かせたいって思ったけど、やっぱ他の奴らもやってると驚いてもらえないな。はは」
「じゅ、十分、おどろきました……。心臓、止まるかと」
「ええ!? そこまで!? やっぱ主サンは繊細なんだな、ごめん」
詫びながら独神に渡したのは、若草色の紙で包装された箱だった。
「疲れた時に少しずつでも齧って貰おうと思って、小さいのがいっぱい入ってるからな。
飯の前でもちょーっとだけ食べられるぞ」
「お気遣いありがと。これは私からです。……あなたのより数は少ないけれど、全力で作ったわ」
「やった! へへっ、主サンから毎年貰ってるけど、やっぱ照れるな」
後ろの羽がぴょこぴょこと動いているサンキボウを見て、独神は声を出さずに笑った。
「なんだなんだ? 可愛い顔しちゃって」
「だって、犬の尻尾みたいにあなたの羽が動くんだもの」
「そりゃ、主サンの血代固だぜ? 嬉しすぎて今にも飛び回りたいんだって!
それにさ、主サンに伝えたい事が沢山あるんだよ!
いつも世話になっててありがとうとか、もっと頼ってとか!
オレにしてもらいたいこともっとないのかとか、もっと主サンを連れて飛びたいとか!」
ずいっとサンキボウは身を乗り出した。
「主サンはどうしたら我儘言ってくれるんだ?」
「え。……じゅ、十分で、」
「十分言ってるってか? その"十分"ってのが少なすぎるんだよ!
他の奴らを見てみろって。欲望に足ついたような奴から学んでくれよ!」
確かにそれらしき英傑はいる。
そんな者達を手本に考えるならば。
「……と言うとやっぱり……外に出たい……かな」
「よし。じゃあ外出な。考えとくから!」
背中の羽を震わせ、全速力で飛び去っていった。
「大丈夫かな……」
一抹の不安を抱えつつ、なるようになるだろうと、独神は己を無理やり納得させた。
フツヌシ
「待っていたよ、主(ぬし)」
「……こんにちは」
私はフツヌシの部屋に足を踏み入れ、後ろ手で障子を閉めた。
部屋は和紙を通して光に照らされているが、今は雲がかかっているのか仄暗い。
「これ。ばれんたいんの血代固。……受け取ってくれる?」
「勿論だとも。だから主も、私の血代固を受け取りたまえ」
つつがなく血代固を交換した。
受け取った血代固は重ねた和紙の四端を集めて結んだだけの簡素な包み。
フツヌシを見ると「構わぬよ」と言うので包みを解いてみると、何の変哲もない血代固がころりと三つあった。
「ふふ、期待外れだったかな?」
「いいえ。美味しそうね」
「見た目だけでは判るまい。中に薬が仕込まれている可能性だってある。
例えば……私以外見られなくなる盲目の愛の薬とか」
フツヌシならあり得る。
と、そう思わせるように、普段から真実と虚偽を織り混ぜているのだ。
「見えなくなるのはやり過ぎじゃないの?」
「そうだろうか。私は既に貴殿に盲目だというのに、不平等ではなかろうか」
「あなたのこと見過ぎなくらい見ていると思うけれど。またちょっかい出した事も聞いているわよ」
「おやおや。主は耳聡い」
くすりと笑うフツヌシには、不穏な予感しかしない。
「それじゃ、私は次の子の所へ行くから。またね」
撤退の為後ろの障子を向いたならば、進行方向とは逆へと身体が引っ張られていく。
右手首にかかった圧は勿論、フツヌシによるもの。
「血を代わりに固める、なんて面白い字を書くと、そう思わないかい?」
物騒な字面。誰がそんな事を考えたのだろう。
今のフツヌシが口にすると、その名前の恐ろしげな印象を強める。
「英傑ではない貴殿は私とは一血卍傑が出来ないのだろう。
主には判らぬやも知れぬが、最中の感覚とは面白いものでね。
あれを貴殿と分かち合えたら、とても気持ちいいと思ったのだが。
まあ、出来ぬものは仕方がない。
だが、まだもう一つあるだろう。貴殿と私が快楽を分かち合う方法が」
手首の圧が強まった。
血液の流れが阻害された右腕は強く脈打ち、冷熱が広がる。
「……そういえば、知っているかね?
今日は主が血代固を全員に配るから、他の英傑の邪魔をしないと決まりを定めたのさ。
逆手にとればつまり、私が貴殿に何をしようと、誰も来ないという事だ」
後ずさりは許されない。
「主、血代固のお礼に私と楽しい事をしようではないか」
弓形に吊り上げられた唇が艶めいていた。
私は……。
私は何もしない事を選んだ。
これはフツヌシにとってのお遊びでしかなく、本気ではないと。
「……逃げもせず、力で排除しようともしない、か。肝が据わっている方だよ、貴殿は」
「腕を掴んだままよく言うわ。そもそも逃げる事なんて出来ないじゃない」
なんて当てこすりを言うと、フツヌシは「ああそうだった」などと惚けながら腕を放した。
「ほら、主。口を開けなさい」
素直に開けていると、口の中に血代固を放り込まれた。
「お味の方はいかがかね」
「お、美味しい……。中何入れたの?
さくさくみたいな、ぷちぷちみたいな……面白い食感の粒が入っているわ」
「それは秘密だよ」
秘密が知りたくて、口を開けて待っていると、また血代固が押し込まれた。
「なんだろう……とっても気になるわ……」
舌の上で粒を転がし考えていると、フツヌシは咳払いを一つをした。
血代固に一生懸命でフツヌシの存在を一瞬忘れていた。
「やれやれ。貴殿といると毒気を抜かれるよ。出来れば、貴殿はそのままでいてもらいたいものだね」
また次の血代固が唇に押し当てられ、私はそのまま中へと受け入れた。
「私の理性が持つ間は貴殿を傷つけないようにしよう」
コノハテング
「ぬーしーさーまぁーーーーーーーー!!!」
空の上から大声で呼ばれ、独神は即座に顔を上げた。
碧緑の羽で空が覆われていた。コノハテングだ。
独神と目が合ったコノハテングは、大きく息を吸い込み、更に大声を上げた。
「主さま。だーいーすーきーだー!!!」
即座に降下し、独神の前へと軽やかに着地した。
「へへっ。今日は堂々と言えるから気持ちいいな!」
にぱっと屈託なく笑う。その笑顔に癒されながら、独神は持っていた包みを渡した。
「どうぞ。私も……あなたのこと好きよ」
「マジで!? すっげー嬉しい! ありがと! 主さま! で、これは、っと」
コノハテングは上着の布袋(ぽけっと)を探り、手のひらより二回りほど小さい小さい包みを独神に渡した。
「ちゃーんと、俺も用意したんだぜ!
血代固に木の実を入れると良いって教えてもらってさ!
今食べてみてくれねえかな?」
「じゃあ、さっそく頂くわね」
包みを開けると、ころりと転がる鞠のような血代固が二つ。
一つを摘まんで口に入れた。
「あ、胡桃が入っているのね!」
「そう! なあ美味い? 美味いと嬉しいんだけどな!
この日の為に、血代固事色々聞いて回ったんだぜ」
「とても美味しいわ。折角だから、あなたも食べてみてよ。私もあなたが美味しいと思えるようにって考えたんだから」
「ほんとか! じゃあいただきます!」
コノハテングは大きな手でそっと優しく包みを開き、中の血代固を丁重に掴んで口の中に入れた。
軽く口を動かしながら、こくりと飲み込む。
「……俺さ、主さまに俺の血代固が一番美味しいって思ってもらいたかったんだ。
でも、一番にはなれなかったな。だって、一番美味いチョコは主さまの血代固だったんだから」
好意の弾丸に流石の独神も気がそぞろになってくる。
剥きだしの純然たる想いの攻撃力は計り知れない。
「俺は幸せだ。あんたといられて、あんたとこうして笑いあえて。
俺はずっとずっと、あんたといたい。
序列の下の俺なんかじゃ力になんねえかもだけど、天狗の加護がいつだってあんたを守ってるって、
知っといてくれよな!」
もはや、羞恥心で言葉を紡げない。
独神はうんうんと頷いて返答を精一杯表した。
「主さま。……もう一回、好きって言って良いかな」
そんな事を言われては目もろくに見られない。
頷く事さえ出来ずにいると、コノハテングは笑って言った。
「へへっ。主さま。だいすき」
ベンケイ
「上様、これを受け取っていただけないだろうか」
ベンケイから渡されたのは、丁寧に風呂敷で包まれた大きな箱であった。
まんじゅうか、羊羹か、それとも血代固なのだろうか。
見た目だけでは全く判らない。
「ありがとう。私からも、どうぞ」
独神が血代固を渡そうとすると、少し戸惑った素振りを見せた。
「貴方は……。本来ならば仕える私たちが贈る方だろうに」
「好きでやっているのよ。なかなか感謝を伝える機会はないもの」
「感謝、か。そうだな。貴方は」
「有難く頂こう」と、ベンケイは血代固を受け取った。
「我々は感謝だけ、とは言い難い。煩悩に溢れた日だ」
「煩悩は在り過ぎると身を焦がすけれど、多少ある方が日々に活力を与えられるわ。
だから悪いとは思わないのだけれど……元僧としては違うのかしら」
「いや。九百九十九の刀を奪った私には関係ない思想だ。
僧に関係なく、……上様が煩悩の渦中にいる事が気に食わんだけだ」
ベンケイは頭を振った。
「ただの戯言だ。上様は気にする必要はない」
モミジ
服を変えるのはあからさま過ぎるだろうか。
重いと思われてしまうかもしれない。
他の英傑たちにも、どう思われるだろう。
ずるい、と思われるだろうか。
「ばかねぇ。妖族はやりたい事をやって、やりたくない事はやらないの。妖ってそういうもの……でしょ?」
とある英傑の強い言葉に、私は勇気づけられた。
本当は気になって仕方がない周囲の事を気にしていない振りをして、目を瞑って、口を閉ざして、
主(ぬし)様に見てもらいたい、感じてもらいたい事をただただ愚直に追い求めていった。
「主様!これ!受け取って下さい!」
「ありがとう。これ、私から」
「ありがとうございます」
主様のお顔をそっと盗み見ると、目が泳いでいた。
動揺している。彼女は言葉を選んで話すから、まず感情が目に出るのだ。
「今日のモミジ凄く……綺麗ね。とっても素敵でびっくりした」
びっくり、した……?
それだと、私が欲しい言葉に少し足りない。
「……いや、びっくりしたというか……」
したというか?
「……照れる、だな」
……。
「じゃ、またね!」
主様は足をもつれさせながら走っていった。
私の言葉も聞かずに。
でも、…………モミジは満足です。
ジロウボウ
「コノハテングくんと勝負しててさ、どっちが美味いかってよ。
で、どうだ?」
貰ったばかりの血代固を、難しい顔をしながらごりごりと食べる独神。
「うん。美味しいわ。……でも……私の舌が肥えていないせいか……。
あの……本当に申し訳ないのだけれど、どちらも味は同じ……気がする。
ご、ごめんね。変な事言って」
「……マジ?」
「ごめんなさい!! 一生懸命作って下さったのに!」
「いや、味が同じってよく気づいたな。すっげ……オレなら気づかねえけど」
「え、本当に同じだったの?」
独神はあからさまに胸を撫で下ろしていた。
「調理場で殴り合いしたからって、あまり使わせてもらえなくてな……。一緒に作ったんだよ」
「……?」
何か言いたげな独神にジロウボウは気づいていない。
「ご主人が美味いって思ってくれるのが一番だしな。手分けして材料探して八百万界を飛び回ったんだぜ」
「お疲れ様。そこまでしてくれてありがとう。残りも大事に食べるわ」
「コノハテングくんにも礼を言ってくれよ。めちゃくちゃ頑張ってたんだからな!」
「ええ。もう一度言う事にするわ」
「っと、あんまりご主人を止めちゃいけねぇんだった!
今日は他の奴も用意してるからな。
ご主人も今日は独神の使命とか義務なんて忘れてぱーっと楽しんでくれよ」
ダテマサムネ
「独神様! 好きな包みを選ぶと良い」
どん、どん、どん、と三つの同じ色の包みが独神の前、縁側に並べられた。
「ちなみに俺のおすすめは……全部だ!」
独神を縁側に座らせ、お茶を淹れ、包装を開いて次々と食べさせていく。
「美味いか?」
「うん。おいしい、です。素甘も優しい甘さでお茶と食べるには最高だし、
茶碗蒸菓子(ぷりん)も卵の甘さが凄く良かったし、
大福はやっぱりお茶との相性が一番よね」
「お気に召したようで光栄だ。……さて、ここからが本題だ。
食べる順番に意味があったのだが、独神様はお気づきになられたか?」
「……え?」
うんうんと唸りながら独神は思いついたそばから発言するが、正解には程遠い。
素甘(すあま)、茶碗蒸菓子(きゃらめるかすたーど)、大福(だいふく)。
「(今はまだ、このくらいで良い。独神様の邪魔をしてはならぬからな。
だが、もう少し判りやすくしても良かったか……?
いっそ兜に愛の字でも掲げてやるべきだっただろうか)」
ヨルムンガンド
「ここにいてくれて良かった! はい、血代固」
と、独神は海近くの小屋にいたヨルムンガンドに差し出した。
怪訝そうに独神と包みを交互に見ていると、はっとした顔を浮かべた。
「……ああ、あれか。そういやそんな時期だったが八百万界でもやってんだな」
「ほんの数年前にね。火香緒を見つけてそれから習慣化したの」
「ふうん。悪ぃが、オレ様は何も用意してねえよ。……今まで誰かにやった事なんてねえし」
そう言って、気怠げに血代固を受け取った。
「一応礼は言ってやるよ。……ありがとな」
「どういたしまして。邪魔してごめんね。じゃ、またね」
独神が早々と踵を返すので、ヨルムンガンドは手を伸ばしかけた。
「ドクシンさん」
ぴたりと立ち止まり、ヨルムンガンドを振り返った。
「……いや、なんでもねえよ。用がねえならさっさと行きな」
「判った、じゃあね。あと、言い忘れてたけれど、寒い時は遠慮なく本殿に来てね。部屋はまだあるんだから」
「うっせえな。まあ、気が向いたらな」
笑って独神は行ってしまった。
音がなくなるとヨルムンガンドは大きくため息を吐いた。
「はぁ……。初めて貰ったのがまさかドクシンさんから、なんてな……」
小さな包みを開けると、中にはチョコチップクッキーとメッセージカードが同封されていた。
メッセージカードには「どんなちょこのお菓子が好きか、今度本殿で教えてね」と書かれている。
これを本殿に来る口実にしろと言う意味なのは明白だ。
「食うのが勿体ねえな……」
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