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討伐の帰り、「あちぃ」と立ち寄った甘味処で、俺は一目で確信した。この娘、可愛い。
「お待たせいたしました」
上目遣いで微笑む看板娘は、確かに美人というより可愛い系だが、それがいい。男慣れしていない初々しさが全身から滲み出ている。俺の好みだった。
討伐の度に足を向けるようになった。「ありがとな」と笑いかけると、頬を染めて俯く仕草。完璧だ。
退勤時間を狙って店の前で待ち伏せ、「偶然だな」なんて嘘をついて一緒に飯を食う。会話をしていると、この子はそっちの経験がないと思った。身体を開いたことのない娘特有の心の壁の分厚さで、大体察してしまう。
帰りに手を繋ごうとすると恥ずかしそうに引っ込める反応も「だよな」と思った。そこにぐっとくるんだな。
そうして何度か繰り返して、俺はとうとうその娘を抱けるところまできた。
「大丈夫だから」
最高に優しく囁きながら、俺は慣れた手つきで娘の着物の帯に手をかけた。震える肩、閉じた瞳。完全に俺の流れだ。こういう娘は丁寧にほぐしてやれば、後は思うがまま。
「え?」
──────気づけば俺が押し倒されていた。
上から見下ろす娘の瞳が、さっきまでとは別人のように鋭い。いつの間に服を脱いだのか、白い肌が月明かりに浮かんでいる。
「ちょっと待て、ひ―――」
言葉を遮るように、娘の唇が俺の首筋に触れながら、身体をまさぐった。ちょっと待って。それは俺が教えようとしたものとは全く違う、技巧に満ちた手つきで。あらあらあら。
「いやぁ。参っちゃったぜ。絶対経験ないと思ったのにな。スゲー良かったけど、しばらくする気になれねぇ」
なんか黙ってる奴がいる。
「おい。まさか」
「……はは、よう兄弟」
「身近過ぎるだろ……」
「だったら、お前がもう一個向こうの町で探せばいいだろうが」
「だって近くねぇと会えねぇじゃん!」
本殿から行き来となると、たまにこうして相手が被る。
絶対嫌だって奴は遠征先なんかで恋人作るらしい。俺はすぐ会えない相手は寂しいからなし。
「独神ちゃんがもっと相手してくれればなー。こんなに人肌恋しくならずに済んだのに」
「主も選ぶ権利あるからな」
「俺のどこが悪いんだよ!」
こんな俺にだって本命がいる。
けど、その人はとても立派で、周囲に愛されていて、とてもじゃないが近づけない。
邪な想いを持つことが申し訳ないと思ってしまう。
俺はその人に心臓バクバク鳴らしながら話しかけて、ふざけたことを言って笑わせるのが精々。
でもその人が口元を隠しながら、静かに笑うのが好きだ。
その日はそれだけで胸いっぱいで、腹も減らなくなる。
それくらい、大切なひとなんだ。
「そういや…………。いや、噂なんだけどさ、ヤヲビクニと主が二人で消えたの知ってるか」
どきっとした。
本命と結構好きな娘だったから。
「え。どこで!?」
「いや判るだろ。……出会茶屋」
俺は天を仰いだ。
もうそれは決定的でしかない。
「捨てる馬鹿あれば、拾う神あり、だな」
「ヤヲビクニだって、主様の方が良いだろ。乗り換えて正解だよ」
「乗り換えてって?」
みんながぎょっとした目で俺を見た。
「え。ヤヲビクニってウラシマが好きだったろ? でもお前そうでもなかったし」
「そうかぁ? 結構冷たかったぞ」
「そりゃお前が気を持たせること言って、他のやつ追っかけ回して、オトヒメサマに追っかけられてれば、なあ」
あれ。そんなにヤヲビクニって俺のことが好きだった?
それが今度は独神ちゃんと、ってこと?
「マジかよ~~~~~」
どうして。
俺だって、独神ちゃんのこと好きだったんだけど。
結構マジなやつ。
それがヤヲビクニと?
俺を諦めて、独神ちゃん?
ちょっとそれはきつすぎねぇか……?
「主様が取られるのはアレだけど、結構良いよな。あの二人」
「正直似合う。二人とも可愛くて大人しくてさ。いいよな?」
いや、そうだけど、そうじゃないだろ?
大人しいって言っても、独神ちゃんは実はそこまで大人しくないし。なんなら着物で平気で木登りするし。
俺は独神ちゃんのそういうところ、結構知ってる。
軍議で居眠りしそうになった時に、こっそり肘でつついてくれるのも独神ちゃんだった。つつき方が絶妙で、周りにバレないんだ。
酒に弱いくせに、宴会では無理して飲もうとして、しょっちゅう俺が水と入れ替えてやってた。
ちょっと頬を赤くして「ありがとう、ウラシマさんは優しいですね」言ってくれるのが、俺は好きだった。
髪に花びらがついてる時も、「あ、ついてますよ」ってひょいと取ってくれるのも独神ちゃん。
俺だって、独神ちゃんのこと、ちゃんと見てたんだ。
だからこの戦いが終わるまでは、ちょっかいまでにして、本気で口説かないって決めてた。
でも寂しいから、他の娘を好きになったり、食事したり、……やったりはしたけど!
でも、それがヤヲビクニと出会茶屋って……。
もう俺と独神ちゃんが付き合うのって、……え、無理?
だって、もう独神ちゃんはヤヲビクニと、そういう関係になっちゃったってことだろ。
俺が今さら「実は好きでした」なんて言っても、「遅いよ」で終わりじゃん。
しかも相手はヤヲビクニだぞ。俺が雑に扱っちゃった相手。
独神ちゃんからしたら、「ヤヲビクニを傷つけたあなたが、私を傷つけないとは言えない」って話だろ。
完全に筋が通ってる。
俺に可能性、ない。
あーあ。
人肌が恋しい気持ちってあると思うのよ。
誰でもいいんだよ。
人肌をどうしても感じたい時ってあるよ。
普通に話す相手はいてもさ、寂しい時ってあるよ。
抱き合って、安心したい時。
でも今回は、そうこうしている間に本命が取られちゃった。
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