ホーム
小説
絵
日記
イベント・発行
ブックマーク
メールフォーム
→返信
応援する👋
流行の小物を取り入れた明るくておしゃれな八尋殿。独神はそこで寝泊まりしている。
というのは嘘だ。
一部の英傑は知っている。八尋殿の棚を動かすと独神の私室への本当の入口があることを。
棚を動かして現れた石の階段を螺旋状に下りると、毛羽立った木の板を敷き詰めた小部屋がある。
それが正真正銘、二百以上の英傑をまとめる独神の私室だった。
壁板は黒く変色した染みだらけで、ところどころ削れている。
穴の開いた麻の布を着た独神がブツブツ呟きながら木の板に直に横たわっていた。
「どうせ自分はお飾りだから」
「今日もいっぱい死んだ」
「全部わたしのせい」
「花を渡しただけで手のひらを返すくせに偉そうに」
「あたしが戦えないからって足元見てる」
「よいしょしながら影で悪口言ってる」
「うつくしくなければ独神じゃない」
「やさしくなければ独神じゃない」
「早く死んでくれればいいのに増援しやがって」
内容は毎日変わらない。
人々や英傑や悪霊への文句をつらつらと並べる。
身を縮めて爪を噛むので、指先の肉がむき出しになっている。
「やっほー。主ちゃん」
サトリの明るい声に、独神は眼球だけ動かした。だがすぐにぼそぼと文句を言う。
サトリはそれを気にすることなく、独神に近づいて腰を下ろした。
「救助が遅いって。どれだけ距離があると思ってるんだ」
「だよねー」
「襲われてるんだから、そこへ行く途中悪霊がいるのは当たり前でしょ」
「そうなんだよねー」
「英傑が弱いから悪いって。その英傑よりも弱い奴がなんで文句だけ一丁前なの」
「わかる~」
「……サトリ。趣味悪いよ」
「知ってるかも」
大きな舌打ちをした独神は少し黙った。
サトリは膝を三角に折り曲げて座ったまま。
「今日。また悪口言われた」
「今度は誰?」
「もっと頑張れって言われたもっとって。もっともっとってどれくらいなの」
「困るよね~欲しがりさんは」
「わたしの働きが悪いだって。凡人が頑張ったところで何も産みはしないって」
「そんなことも言ったんだ! 悪い子は誰かな」
「みんなわたしなんて、独神失格だって思ってる」
「大丈夫だって。主ちゃんったら心配性なんだから」
「ほんとうのことだよ」
「だれもそんなこと言ってないよ」
「言ってるよ。だって目がそう言ってる。気を遣ってるだけ。面倒なことになるから言わないだけ。本当は遠巻きにして笑ってる。できない奴だって溜息ついてる。なんで独神の癖にこんなこともできないのって。いつもびくびくしてるの変だって。主にするのが恥ずかしいって。でもわたししか独神がいないから仕方なくいるんだって。独神がもう一人いればみんなそっちに行っちゃうんだから。口だけでみんな持ち上げて、わたしが使えないから、とりあえずおだててマシな動きをさせようってみんなで結託してる。わたしだけ除け者にしてる。主だって言って。生贄にしてる。表ではわたしをすごいすごいって言って、裏でわたしをばかにしてみんなだけ同調して仲良くなってるんだ」
「ないない」
「ぜったいそうだよ。むりだよ。わたしなんてはやく死んでお役目から逃げたいよ。できないできない。吐きそう。お腹痛い。みんなの目が怖い怖いむり嘘吐き」
「大丈夫。アタシを信じて」
お題提供サイト
サトリの言葉を真実と見るか、気を遣った嘘と見るか。
読むひとによって違う。
送信中です
※コメントは最大1000文字、5回まで送信できます