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「ちょっとー。みんなまじめにやりなよー。大晦日だよ?」
私はハタキを片手に溜息をついた。
「今年こそ十一月からこつこつやっていこうって話したのに、最終日なんだからもっと慌ててよ!」
英傑たちは見た目は青年だが、中身は小学生男子ばっかり。
こういう楽しくない行事になると、学級委員や風紀委員よろしく「ちょっとー」と何度も言う羽目になる。
ぱさぱさ埃を落としていると、カグツチが壺を抱えてやってきた。
「これ。捨てて良いか聞いて来いって」
「えぇ。私も判んない……。骨董品の管理なんてツクモに任せたっきりだし」
断捨離の観点で言うなら、骨董品なんて全部処分してしまえば良いのだ。
だけど、八百万界は江戸時代くらいの価値観が蔓延していて、物を大事に大事に扱うのが常識である。
基本的に物はなんでも保管して、月一でフリマ的なことをして必要な人に渡している。
「とりあえず水拭きだけして、蔵入れといて」
「けど、変な気配がするって」
「なにそれ。ちょっと開けてみ」
ハタキを一旦止めて、木製の蓋を開けて覗き込んだ。
────吸い込まれる。
「カグツ──ッ!」
きゅぽん
寒い。
地面からじわじわ冷気が伝わってくる。
そうか、アスファルトか。爪先で叩くとカツカツと音がする。
空を見上げると、眩しすぎる光。
久しぶりに見るスカイツリー。
「嘘。……ここ東京じゃん」
イルミネーションに彩られた街並み。
そこかしこでみんなの手元の機械が顔をぼうっと照らしてる。
「世界を救わないと帰れないんじゃなかったの……」
独神こと、×××(最近忘れつつある私の名前)は、徒歩でコンビニへ向かう途中、二トントラックに轢かれた。
身体はぐちゃんぐちゃんになったらしいけど、神様(仮)が
「ある世界を救ってくれるなら、おまえの身体を全て直してやっても良いぞ」
とか言うので、
「ならついでに足長くした状態で復活させてよ!!」
「え、めん、」
「世界救うんだからそれくらい良いでしょうが!!!」
「いや、」
「あと二重もよろしく」
「ええ……」
とかなんとかやり取りをし、私は『八百万界』を救う独神となった。
しっかし、久しぶりだな、東京。
懐かしい気持ちが込み上げてきて、ちょっぴり泣きそうになる。
八百万界でのドタバタ生活が嫌いってわけじゃない。
でも東京で過ごすのだって全然嫌じゃなかった。
どっちも楽しいし、どっちも現実だ。
そういえば、この身体はなんなんだろう。
病院にあるはずの私の身体は、いたって健康に見える。
この身体は、八百万界で使っていた器の身体なのだろうか。
細かいことはいいや。
せっかく健康な身体があるなら、もう少し都会の空気を味わって、っと。
「げ」
ショーウィンドウの中のマネキンが動いてる。
最新式なのかな。
面白いくらいカグツチに似ていて……って絶対これ本人でしょ!
ダッシュで入店して、カグツチを回収して外に連れ出した。
「馬鹿! なんであんなとこ入っちゃったの! 見世物パンダ!」
「知らねぇよ! 気づいたらいたんだよ!!」
なにそれ。
でも状況が私と同じだ。
まさかカグツチまでいるなんて。集団幻覚?
「とにかく行くよ」
「どこに」
「ここじゃないとこ」
街並みを見回す。
歳末セールという文字。つまり東京は年末で、八百万界と同じ時間の流れなんだ。
どうせならハロウィンの時にしてくれれば怪しまれずに済んだのに。
「な、なんだよ」
長い赤髪を三つ編みして、首には痛々しい傷があって……。
そしてなにより腹筋丸見え。真冬によ!?
これを連れ歩くなんてきつすぎる。
職質ものだ。
……となるとあそこしか。
ポケットに財布はなかった。ただスマホはあった。
慣れた動作で親指をあてると、画面のロックが外れる。
連絡先一覧を開いて、私は緊張しながらタップした。
「お電話ありがとうございます、神代旅館です」
家の方じゃない。受付の方にかけるとすぐに出た。
「あ。え、と、お、お母さん。私だけど」
「大変申し訳ありませんが、うちに娘はいません」
「いるよ。それとも生意気すぎてなかったことにしちゃった?」
冗談を言ってみる。
だって怖いじゃん。
もしもここが私の知る現実じゃなかったらって……。
「……はいはい。いますよ。朝ご飯に味噌汁がないだけでキレて出ていった馬鹿な娘が不本意にもね!」
良かった。思わず膝から力が抜ける。
ちゃんと私がいる世界だ。
「てか味噌汁ごときで出ていくなんてヤバくない?」
「なに今更。さては反省したけど照れくさくなっちゃったとか?」
「そうそう。ってうるさいよ!」
味噌汁でキレるなんて。
八百万界に行く前の私なら全然ありそう。
なんでも文句つけてたっけ。
それが贅沢だってこと、判んなかったんだよね。
「ところでさ今日友達連れて行って良い? 泊まりで」
「えー、その子お金出してくれるの?」
「出せないけど」
本殿にはしこたま界貨貯めこんでるんだけどね。
「はいはい。じゃあ広間あけといてあげるわ」
「よろしく。じゃー」
「じゃあね」
通話を切る。過去一緊張した。
昔から旅館『神代』を便利に使ってたけど、今なら経営状態が判る。
年末年始に広間が空いてるって、相当閑古鳥が鳴いてるってことじゃん。
本当に良かったのかな。
飛び入りで団体客が来てくれるかもしれないのに。
きっと私がお金を出せないって言い方をしたから、何かを察してくれたんだと思う。
うちは両親とも人が良くて、困っている人には手を貸すタイプだ。
でも娘の私はそういうのが判ってなくて、全部自分の手柄だと思ってた。
……自分の馬鹿さが恥ずかしくなってくるな。
「主?」
カグツチが不安そうに私を見ている。
そうだ、反省は後。とりあえず実家に連れて行かないと。
私、主なんだから。
「大丈夫。今すぐ向かうよ」
「だからどこだよ!」
「実家」
「主の実家!? そんなものあるのか!?」
「あるよ。木造だから燃やすのはナシね」
地図アプリを参考に近くの駅まで走って、スマホのsuicaで乗車券を一枚購入。
財布がなくても買えるなんて、スマホさまさまね。
「カグツチはこっち持ってて」
乗車券を渡し、私はモバイルsuicaで改札を通過。
やけに目立つ相方を端の席に座らせ、隣に陣取る。
あやしい恰好のお陰で、誰も近づかない。こりゃ楽でいいわ……。
と、思った矢先。車内のみんなの視線が一点に集まっている。
「ちょっと! なにやってんの!」
カグツチは、手の中で燃え上がる切符を呆然と見つめていた。
申し訳なさそうな顔をしているが、手からは相変わらず小さな炎が漏れている。
「悪ぃ......つい、緊張して」
「嘘でしょ……ええ……」
どう見ても二十代後半の男性が切符を燃やすなんて.....やばいでしょ。
これをどうやって駅員さんに伝えろって言うのよ。
……でも緊張するよね。異世界に来たんだもの。
私だって、八百万界に来た最初は怖くて仕方なかった。
今じゃすっかり馴染んじゃったけど、それは英傑みんなが支えてくれたお陰。
今度は私が返す番。
「……任せて。なんとかする」
火が出るその手を握った。
カグツチのクセだ。他人に触れられていると火が出ない。
「降りるまでこうしてよう。そしたら電車を丸焼きにすることもないよ」
「電車って、今いるこの箱か」
「そうそう。電車って言うの。自動で走行する乗り物。馬みたいなもんよ」
「随分金属くせぇ箱だな」
「まあね」
カグツチは少し落ち着いたのか、電車内をきょろきょろ見回している。
鍛冶屋なだけあって、金属への興味は人一倍らしい。
お陰で私も少しずつ気が鎮まってきた。
主としての振る舞いを思い出したというか。
電車の揺れを楽しむ余裕も出来た。
この眠気を誘う振動。
うとうとしかけたその時、隣の車両から聞き覚えのある声がした。
「なるほど! これで移動してんだな!」
「声が大きいわよ」
「人が多すぎ……無理よ、こんなの。はあ……洞穴があったら入りたい……」
すっかり目が覚めた。
あの声は絶対にスサノヲ、それと姉二人。まさか。
「あー......もう」
頭を抱える。どうやらこの世界に来たのは私たちだけじゃないらしい。
カグツチを連れて隣の車両に行ってみると、そこはもうカオスの極みだった。
「……むにゃ」
優先席でちゃっかり寝ている若者風の老人。
その隣で、絶対健康体なのに座っている長刀の男。
「ちょっと。静かにしろって書いてあるよね? 静かに出来ないならさせてあげようか?」
他の乗客を刀で脅しているヤバすぎる小さめの男。
「おっ! 見ろよ、ごちゃごちゃ光って凄くねェか?」
「煌々と光っていますね。地上が空に呑み込まれたようです」
意外と楽しんでいる鬼とオッドアイの男。
スサノヲ、ツクヨミ、アマテラス、ヌラリヒョン、コジロウ、モモタロウ、シュテンドウジ、ウシワカマル。
神代八傑のうち六人も。
残りの二人もどこかにいるのかな…………ぱっと見いなさそうだけど。
私には英傑の気配を辿る芸当なんてできないから、本当のところは判らない。
主として振る舞わなきゃと思ったばかりなのに、もうイライラが限界。
「とにかく降りなきゃ......みんなで降りなきゃ」
私は出入り口の電光掲示板を見上げた。目的の駅は次。
私は大きく息を吸った。
「全員集合!!!!!」
さっきの八人とカグツチ、そしてハンゾウとサイゾウがそこにいた。
「え!? ハンゾウとサイゾウ!? どこにいたのよ」
「天井」
「網の上」
気付かなかった……。
っていうか、忍びだから網の上なのは判るけど、天井って......。
見上げると、ハンゾウがべったり天井にはりついてくれた。
ホラーじゃん。『8番のりば』か。
サイゾウに至っては手荷物置き場の金網の中で寝そべっていた。他の乗客は気づかなかったの?
「キセル乗車が、ひーふーみーよー……。数えただけでヤバすぎる。ニュースになるこんなの」
どうやって駅員さんを説得しよう。
異世界に来たから許して。って、無理でしょ。全員お縄についちゃうわ。
「なんだ、主。悩むくらいなら話せ。貴様の悩みなんぞ、案外簡単に解消するかもしれないぞ」
と、頭を悩ませる元凶の一人であるハンゾウに言われて、私はいつもみたいに相談を始めた。
「……じ、実は」
この世界では、乗り物に乗るにはお金がいる。
そしてみんなの分をまかなえるほどの手持ちがないと話した。
「なーんだそんだけかよ」
シュテンドウジが言った。
他のメンツもはいはいって頷いてる。
「オレ様に任せてなって」
スサノヲもそう言ってる。アマテラスも、
「大丈夫ですよ。主さま」
アマテラスに後光がさしている。てことは、大丈夫だ。
私は大きく頷いた。
「じゃあ任せる。降りるのは次に止まって、扉が開いてからね。あとそこのヌラリヒョンは叩き起こして」
主に言われたからには、とばかりにバンバン叩き始めるシュテンドウジに、介護を任せた。
『次は~、~。お出口は左側です』
進行方向に向かって左の自動ドアのところに私が立つと、みんなも習ってぞろぞろ並ぶ。
ぷしゅーとエアが抜ける音がすると、鉄の扉がぎゃこんと開く。
降車しやすいように扉の左右に待ち構える乗客たち。
彼らが私たちを見てギョッとしている。
だめだめ。気にしない。
私たちは堂々と電車を降りた。
ホームには駅員さんがいる。燃えカスとなってしまった切符を握り、声をかけに行った。
「あの! 切符を燃やしてしまって......」
「燃やす? おっしゃる意味がよく判りませんので、経緯を説明して頂いてよろしいですか」
「実は……」
私が今から真面目に頭を下げようとしているというのに、後ろでものすごいドタバタしているのが判る。
「キャーーー!!!」
「追え!!!!」
「なにあれコスプレ」
「〇outubeの撮影?」
あ~~~~~~~~嫌な予感しかしない。
「切符が燃えたのは、なんというか偶然で。って、ちょっと!」
耐えきれずに振り返ると、案の定。
改札を飛び越えていく英傑たち。
「うおおおおお!」
「……面倒な」
「主さん、早く! 罠は解除しておいたから!」
真っ二つに斬られた改札の先で、モモタロウが手招きしている。
もう言い逃れ出来ない。
犯 罪 者 確 定
「す、すみません!!!」
「ちょっと君!!」
私も英傑達に続いて、駅員さんを振り切り改札の残骸を飛び越えた。
……意外とスムーズに跳べたな。八百万界で脚力鍛えられたのかも。
「おい! 君たち!」
駅員さんの制止の声が響く。
「主さま! こちらです!」
アマテラスが自ら発光して目印を作ってくれている。
と、同時にスマホのシャッター音の嵐。
そりゃそうだ。発光美人なんて投稿映えするもんね。
みんながネットデビューしちゃう。不本意な形で。
「主ちゃんこっちよ! ほら!」
ツクヨミが追手に水塊を当てて、援護してくれている。
いつもの逃走シーンと一緒だ。
まったく、世界が変わっても、この展開は変わらないんだな。
逃げる途中、後ろから怒号が聞こえる。
「あいつらだ! 空から人が降ってきたって通報があったグループだ!」
「みたみた。めっちゃバズってた」
げ。
カメラの前で降ってきちゃったのか。
「マネキンの中にいた人!」
「店の酒呑んでいった奴!」
「屋根を走ってた人が!」
「車を刀で斬ったって!」
待て待て待て待て!?
みんな結構やらかしまくってるじゃないの!!!
「主殿、引率に精が出ますね」
「うっっさい!」
ウシワカマルが走りながら横から話しかけてくる。
こんな時に余裕そうな顔しやがって。
でも、ついていける私も凄くない?
伊達に毎日走り回ってないもんね。
「お頭! なンだありゃ!」
サイゾウが指したのは百貨店……そうだ! 歳末セール中だ!
人混みに紛れ込めば、追手を振り払えるはず。
「みんな! 人混みに紛れ込んで! って、あれ!?」
もう英傑たちは思い思いの方向へ消えていった。
「君。お母さんとはぐれちゃったのかな?」
「僕、大人だけど」
モモタロウは警備員につかまっている。迷子扱いされて。
ウシワカマルは福袋を求めて徹夜する行列の様子を観察している。
「なるほど、袋の中身が判らないのに買うのか。賭博と変わらないな」
「文句あるならどいてくれます? 邪魔」
若者にウザがられちゃってるし。
アマテラスはスマホで連写されてる。
「何チャンネル? 登録者数は?」
「え? ちゃんね、ってお姉ちゃんですけど」
シュテンドウジはマイルドなヤンキーと酒盛りしてる。
ツクヨミはコスメカウンターに座ってるし。あ、子供扱いされて追い出された。
ヌラリヒョン……は、屋台でおでん食べてるし!
コジロウ…………判らない。どこに置いてきちゃった? うそ、判らない。
「お頭! コジロウはハンゾウが連れて来てる。それよりアレ見ろ!!」
サイゾウが指差したのはスサノヲ。
百貨店の中央吹き抜けにある巨大な「歳末大売出し」の装飾の上に乗っかって、
「ここなら全部見渡せるぞ! こりゃ凄ぇぜ!!」
巨大な装飾が不気味に揺れている。
そこかしこの飾りが落ちそう。
「降りてきなさーい!!」
私は叫んだ。
でも、スサノヲはますます上へ。
吹き抜けの中心で、ご機嫌に飛び跳ねている。
そのたび金色の「特売」の文字がきしんで、人々が不安そうに見上げる。
「なんだこの騒ぎは!」
「お客様! そこは危険です!」
警備員が慌てふためいている。
「へっ、心配すんな。オレ様がちょいとばかし片付けてやるよ」
「やめて! 絶対やめて! 風を起こさないで!!! ダメ!!!!!!!!!」
私の制止の声も空しく響き、スサノヲの周りに風が渦巻き始めた。
装飾は散り散りになり、人々は逃げ惑う。
そして誰が通報したのか警察のサイレンが近づいてくる。
「みんな! こっち来て! 急いで!」
もう、どうにでもな~~~れ!
路地を抜けて、横断歩道を渡って……って、待て!
前後の道路が警察車両で埋まり始めてる。
しまった、囲まれた!
「マラソンやってんのかよ」
「年末だぞ?」
「箱根の練習?」
もう、どうにでもな~~~~~~~~~~れ!!!!!!
「あれ、何撮影?」
「どうせ迷惑〇ーチューバーでしょ」
四方八方から指を指され過ぎて、なんとも思わなくなってくる。
今大事なのは、英傑たちを全員実家に無事連れて行くこと。
この際、何と言われようがいい。
「まさか大晦日にこんな全力疾走するとは思いませんでしたぁ」
アマテラスも息を切らしている。
でも光り輝く美人が走ってるもんだから、
「映像の撮影だ!」
「へぇー、どこのドラマ?」
「ネト〇リ?」
勝手に盛り上がってくれてありがとう。
「せっかく掃除中に茶を呑んでいたというのに、まさかこんなに走ることになろうとは」
「ちょっと、ヌラリヒョン、サボってたの!?」
帰ったら罰ね。
「なんで俺がこんな目に……」
コジロウもきっとサボってたんでしょ。
この二人には丁度良い運動ね。
ハンゾウとサイゾウは建物を伝って走って飛んでる。
目立たない程度に好きにやってて。
息切れしながら走っている間に、実家へついた。
都心から少し外れた場所にある古い旅館。
古くさくてダサイと思ってたけど、今見るとまあまあモダンじゃん。
八百万界がガチ時代劇の世界だったせいかもだけど。
うん。うちの実家、案外悪くないかも。
「なにモタモタしてんだよ。目的地はここなんだろ? 入っちまえよ」
「煩いな。心の準備ってのがいるの」
事故で植物人間になった娘をどう思うのか。
判らない。怖い。
その足は自然と家族用の玄関ではなく、旅館の玄関に向かった。
そこに母はいた。
「あんたの気分屋にも困ったもんよね」
「はは」
「ほら風邪ひくから入りな」
こうやって立っている私を見て、何の違和感も抱いていない。
てことは、私が植物人間になっている記憶ないんだ。
そりゃありがたい。
ありがたいんだけど。複雑だなあ。
心配はかけたくないんだけど。
「……ただいま」
「おかえり」
その一言がこんなに染み入るなんて知らなかった。
母は相変わらずの口調で、私のことも、連れてきた大人数の英傑たちにも特に突っ込まない。
昔から、よく人を拾ってくる娘だとでも思っているんだろう。
その寛容さが今は本当に有り難くて。
「ところで後ろの」
「……ぶ、部活」
スルーしてくれると思って油断した。
「でもあんたのとこ休部になったって」
「そっちじゃない! 大学と社会人のサークルと混合なの!! え、演劇部! それで、今、役になりきる特訓がしたいって」
五秒でバレる嘘を母親に言ってしまった。
そこにすっとヌラリヒョンが入ってきて。
「初めまして。私は劇団『和楽』の演出を務めております桜井と申します。本日は突然の訪問、大変申し訳ありません」
なんて自然な名前の出し方!? 誰だよ桜井って。
「お嬢様には日頃から大変お世話になっております。この度は年末の発表会に向けて、伝統芸能と現代演劇の融合を試みておりまして」
おい、嘘を重ねるな。
でも言い回しが絶妙すぎて止められない。
「ご迷惑をおかけいたしますが、どうかよろしくお願いいたします」
完璧な角度の一礼。
母は「まぁまぁ」って完全に丸め込まれてる……。
「部屋はもう用意してるから、好きにしなさい。人数は判らなかったから、布団は自分で用意するのよ。片付けも」
「判った」
うちの母をジロジロ見すぎる英傑達を、さっさと旅館内へ押し込む。
みんなが扉の向こうに行ってから、私は母に言った。
「あ、ありがと……。いきなりだったのに、用意してくれて」
母は目を丸くして、笑っていた。
「あんたがそう言うなんて、変なものでも食べたんじゃない。それより、他のお客様に迷惑をかけないようにしなさいよ。ちゃんと言っておきなさい」
「ん」
母はさっさと仕事に戻った。
多分明日の朝食の確認とか、下準備をするんだろう。
私だけはその背中が消えるまで見ていた。
「主、早く入れよ。オレたちじゃ判んねぇんだって」
カグツチに言われて、私は旅館内へ入った。
「案内するから、ついてきて。でもって、静かに。判った?」
「「「「「はーい」」」」
「うるさい!!!!」
シーっと人差し指を立てて注意したのに、みんなはそわそわしている。
スサノヲとモモタロウは廊下の欄間を指差して「こいつだろ! 主が色を塗ったって言ってたのは!」とか、
ツクヨミはふすまの模様を眺めて「ふうん。主ちゃんが破ったのはこれね」とか、
アマテラスに至っては「ああ、ここで主さまは育ったのですね」なんて妙に感慨深げ。
そうか。
私、いつも八百万界で、実家のことベラベラ喋ってたんだ。
欄間の彫刻をペンキで塗ったこと。客室の魚模様の襖を銛で刺したこと。旅館のこと。
親には古臭い旅館だと文句ばっかり言ってたのに。
人に話して恥ずかしいとは思ってなかった。
当たり前のものとして、みんなに教えてた。
「主? 前言ってた、よく寝れる部屋というのはどこだ」
コジロウがそわそわして聞いてくる。
「ごめん。その部屋多分人いる。でも良く寝れる蒲団は出してあげるから」
みんな、私の世界、楽しんでんじゃん。
ふうん。
……まあ、悪くないかも。
「さっさと案内しろよ。あと、酒な」
「せっかち。お酒飲みたかったら金出しなさいよ」
多分酒類は無理だろう。
母から見て、シュテンドウジが何歳に見えるか判らないけど。
大部屋へ連れて行くと、英傑達はみんな好き勝手に部屋を荒し始めた。
「うわ! これが水洗便所か!」
「お風呂はどこですか?」
「ご飯はまだ?」
「この箱から音が出るぞ!」
次から次へと質問攻め。
そのわりに、私の説明なんて聞いちゃいない。
テレビには興味津々だし、エアコンの風に驚いてるし。
みんなでワイワイと。
そうそう、私も八百万界に来た時はこんな感じだったっけ。
「じゃあ、みんな自由にどうぞ。判らない時は机の上の紙見て。大体書いてる」
誰かがテレビを点けた。賑やかな紅白歌合戦の音が流れている。
英傑たちがそれぞれ思い思いの場所に蒲団を敷いて眠りについていく。
ハンゾウは壁際に座ったまま、サイゾウは窓の外を見ている。
「あのね、ここって文明が発達してるの。見張りなんていらないの」
サイゾウは不思議そうな顔して素直に従った。
けどハンゾウは駄目。私の事ずーっと睨んでた。
「本当に大丈夫。警備会社も登録してるし、カメラも沢山あるから」
「……忍のいない世界、か」
ハンゾウは不服そうにしていたが、最終的には蒲団に入って寝ていた。
独神として頑張れば、忍たちが安心して寝られる日々を送れる。
それはつまり忍を廃業することに繋がるんだけど。
今は深く考えない。
八百万界を平和に導いてから考えていけばいい。
朝、目が覚めると、母の手料理が並んでいた。
しかも、みんなの分まで。
無賃宿泊者に対してサービスが手厚すぎる。
両親は、他人を大事に出来るひとだ。
八百万界に来る前は判ってなくて、ただのお人よしとして、少し馬鹿にしてた。
でも今は、他人に手を差し伸べられる人の凄さが判る。
この両親から生まれて良かった。
お父さん、お母さん。
いつも、文句ばっかり言ってごめん。
でも今度は違うの。
八百万界を平和にして、胸を張って帰ってくる。
そしたらさ、今度は私が両親みたいに、誰かの支えになれる人になってるから。
朝日が昇り始めた空を見上げて、私は誓った。
「あけましておめでとう。……必ず、帰ってくるからね」
mybestpixivを見て、感謝の気持ちがわいたので書きました。
私はそんなに作品は書いてないと思うのよね。一話は長いけど。
だからよくこの回数が回ったな……ってびっくりしたのよね。
あと、今年は感想が来た年だった。
来ないのが普通だから、結構びっくりしたな。
読みたいと思ってくれる人がいるなら、まだこのジャンルで頑張ろうかと思えた。

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